(1)
「だれ?アンタ」
「おれか?おれは魔法シェリフ、アニー・キャラハン。ウインド閣下の特命を受け、貴様を捕縛しにきたものだ」
「魔法シェリフ。聞いた事があるわ。人間政府の犬ウィンド・オールドミス*1の飼い犬。…フフフ、犬の飼い犬ってどう呼べばいいんだろ」
「好きに呼んでもらって構わんよ。魔女のツラ汚しの貴様に罵倒されても、毛ほどに感じん」
「む、むかぁ!」
どうやらキレやすいのはティンクルの方らしい。
「…噂通りの阿呆。こんなやつの為にわざわざおれが呼ばれたとは。泣けるゼ」
諸手を大げさに振り上げて嘆息するアニー。しかしティンクルも負けてはいない。
「アハハハ。じゃあ本当に泣いてもらうよ」


ズギュン、ズギュン、ズギューン!!

いきなり愛用の魔銃乱射。トリガーハッピーは伊達ではない。
「その魔弾には催涙魔法がかけてある。メロドラマより泣ける事請け合いなんだから!!」
アニーに迫る魔弾。しかしアニーはうろたえない。ホルスターより抜き出したるは金色(こんじき)に輝く魔銃。アニーの長口径のものとは違う拳銃型のものだ。
「血の気の多い女」

ガキン!ガキン!

「!!」

銃身に弾き落されるティンクルの魔弾、しかし
「まだ一発あるよ!!」
アニーの腕を潜り抜け、迫る魔弾。もはや銃によってよける術は無い。
「知ってるさ」

ズシャアァァァア!!!

「やった!命中。お涙頂戴」
…しかしアニーの姿に変化は見られない。
「あ、あれれ?」
「見当はずれか。見ろ」
魔弾は地面に落ちていた。モウモウと硝煙を上げるのはアニーの胸元に輝く金バッジ。そう、魔弾は金バッジによって弾かれていたのだ!!しかしバッジには傷ひとつないく、アニーも顔色ひとつ変えない。
「この魔銃もバッジも、魔法シェリフにのみ許された特殊合金で造られている。そこらのチャチな魔女の使う魔弾など、当たりはしない!!」
「チャ、チャチぃ!?
「貴様の事じゃない。おれが上等なだけさ」
「バカにされてんのはおんなじだよ!次は当てる!!」
「いつまでもおれがマトになっていると思うのか?次は…」
金色の魔銃に装てんされる魔弾。こちらも金色だ。こうまで金色づくしとは、魔法シェリフはかなりの高額を経費で落せるらしい。
「貴様がマトだ」
―むぅう、ムカツクムカツクムカツク!!さっきからこっちがバカにされ通しじゃない!コイツのスカしたツラを泣き顔でくしゃくしゃのクシャンにひん曲げてやりたいやりたいやりたぁい!!―
あまりお上品でないティンクルの心の声である。悪巧みを考えるときだけは灰色の脳細胞を発揮する彼女、さて何を考えつくのやら。
「…わかったよアニー。アンタの強さは認める。だから正々堂々といこうじゃないの」
「そちらから先に撃っておいて正々堂々とは、虫が良い話だな」
「ウグゥ。ででででも、そっちは正義の味方でしょ」
「正義!?」
異様に反応するアニー。正義を玉条とする魔法警察。その中でもエリート集団である魔法シェリフはとりわけ「正義」に対する執着が強いのだ。 
―なんか効いてるみたい。ではこの調子で―
「そう、アンタは正義の味方。アタシはアンタに追われる悪い奴。そうでしょう?なら、アタシはよくっても、正義の味方が一方的に攻撃するって法はないわねぇ」
「ム、確かにそうだ。では正面から同時に撃つとしよう」
「定番の後ろに5を数えて下がり、向き合って撃つアレでネ。でも・・・」
西部劇を見ている諸氏はご存知の事と思うが、この決闘法は5秒と共に振り向きざまに撃つ。しかしティンクルはここで特別ルールを提案する。
「アタシの魔銃はロングバレルだから三発までしか充填できない。あんたの六発充填のリボルバー式より不利よね」
「そうなるな」
「なので今回は数え終わった後に一発、弾を充填して撃つ。外せばその度に補填する。こんなのどう?」
「…いいだろう。確認するがいい」
アニーは目の前でリボルバーより弾を抜く。そして

バン!

内部装填されていた弾を上空に向けて撃った。
「これで弾は、ない」


(2)
エアプラント吹き荒ぶ町外れ。二人の魔銃使いは背中を合わせてたたずんでいた。二人のカウントを任されているのは、ティンクルのお目付け役、エ・プラン*2である。
「そのモジャモジャ毛は不正を働いたりしないだろうな」
「大丈夫よ。エ・プランはアンタと同じカタブツだから」
「そうか、悪かったな。モジャモジャ毛
「…その呼び方はやめてくださりますか。お嬢様」
困り顔のエ・プラン。たしかにモジャモジャ毛にしか、見えない。
「では、数えますぞ『1』」
双方、一歩足を踏み出す。と、アニーが語り出した。
「貴様の銃には催涙魔弾が仕込まれているといったな。おれの弾は必中必睡の睡眠弾だ。お前の意識を奪って、難攻不落の監獄・アブハチトラズ刑務所*3へと連行する」
『2』
「それは楽しそうなところね。ただし、アタシは行きたいところへは自分で行く。人のいいなりにはならない」
「愚かな女だ。そんなつまらん意地の為に追われ、遂にはシェリフのおれまで出動させる羽目になったのだぞ」
『3』
「意地が通せなくちゃ、おしまいよ。そんな世の中で生きてたって面白くないわ」
「…変なやつだよ。泣けるゼ」
「泣かせるのはコッチの仕事!」
『4』
二人の声が止まる。同時に、踏み出す足も速度を落していった。音もなく。ただ風だけがその場に時間のあることを伝える。そして最後のカウントが告げられた!
『5』
瞬時に振り向く二人。アニーのほうが若干早い、か!?
「口ほどにも無い。ティンクル、遅い!!」

*1:魔法シェリフの長官にして国防魔女の№2

*2:ティンクルのお目付け役の魔法生物。

*3:魔法政府直轄の刑務所。特A級の魔法犯罪者のみが連行される。出所者の再犯率0.00001パーセントを誇る