湖西線にて我
それはコンバット加賀より帰還した日のことでした。
敦賀駅を過ぎた列車は近江塩津駅で湖西線と北陸本線に分岐します。
私は終電の湖西線に乗るため、そこで降りました。
ほかに降りた人はいませんでした。駅員もいませんでした。
明かりはついていました。しかし周囲は人家もなにもない暗闇の世界です。
連絡通路を渡り、湖西線のホームで電車を待ちます。吐息だけが白く、明るい。
数分後、闇を裂いて列車がやってきました。
湖西線は近江塩津駅で折り返し、終点の京都へと向かいます。
進行方向が逆になるため、私が乗ったとき、イスの向きは逆でした。
かまわず乗り込みました。客は私一人です。
「バタン」
かすかに音が聞こえてきます。
「バタン」「バタン」
断続的に、そしてだんだんこちらへと。
「バタン」「バタン」「バタン」
それは車掌がイスを手で逆向きにする音でした。
「バタン」「バタン」「バタン」「バタン」
音は躊躇なく、かつ淡々とこちらにやってきます。
その有様があまりに荒々しいので、私の席に来たとき、車掌は
「私ごと席を折るのではないか」
そして前のめりに畳まれた私を気にもかけずに、
平然と次の車両に移りまたバタバタするのではないか。
そう思ったのです。
ひどくオートマチック。