ニコニコ動画は悪貨であるか?

「悪貨は良貨を駆逐する」
と、言う。つまり「腐ったみかん」の理論と同じことである。奇麗なみかんの中に腐ったみかんを置くと、他のみかんにまで腐食は伝播し、腐りだす。コレと同じように悪質の銭が良質の銭に混じると、良質のものの価値も相対的に下がると言う。
たしかに銭やみかんにはこの理論は当てはまる。しかし「ニコニコ動画」においては、どうだろうか。今回はアップされる最新のアニメを通してニコニコ動画が「悪貨足るか否か」を考えてみたい。
ニコニコ動画には毎週、最新のアニメがアップされる。放送の早い地域がアップされることも多々あるため、場合によっては本放送よりも早く内容を把握できたりもする。此のような事態が生じた際、画質も悪く、またスポンサーの宣伝もできないニコニコ動画は「悪貨」と言えるかもしれない。無料で悪質ではあるものの、最新の映像を楽しめ、しかもお金は要らない。このような「悪貨」が普及すればDVDの売り上げも下がり、アニメの流通に支障を来たすという声も上がるであろう。
しかし、私はニコニコ動画の普及とそれに伴うアニメの放出を「悪貨」とは捉えていない。何故か?それはニコニコ動画そのものがアニメの質を下げているわけではないからだ。
そもそも「悪貨は良貨を駆逐する」という考えは「グレシャムの法則」に由来する。ここでは悪貨が普及するのは、良貨と悪貨が同じ価値で取引される場合には良貨を人々は手元においておき、質の悪い悪貨を自分の手元からなくそうと積極的に流通に用いるという考えから来ている。だが、ニコニコ動画の小さく、質の悪い画像はそもそもDVDと同じ価値体系を伴って流通しているのだろうか。また、手に取れるDVDと違い、ニコニコはあくまで一過性のインターネットの中の存在に過ぎない。これらを良貨、悪貨のように一つの流通体系に混在するものと解釈することがまず不可能である。
また、レンタルビデオを考えてほしい。DVDの単価が7000円ぐらいだとして、レンタルビデオは一週間レンタルで約300円。DVDの値段と合わせようと考えれば23週間。すなわち約半年ほど借りられる算段になる。これを日数(一回の鑑賞)に置き換えれば、約161回見れるわけだ。
そしてココで問題。DVDを購入した人でその作品を161回最初から最後まで通してみた人は何人いるでしょうか?たぶん3人も、いない。
いや、1人も、いない。
つまりはそういうことだ。所有する(DVDを購入する)人間はその商品の数値的な価値を考えて購入するわけではない。レンタルビデオを借りること以上の採算を合わせようとして、161回見るわけはないのだ。DVD購入はあくまで所有欲に属するのである。そう考えるとニコニコ動画の悪質かつ共有されている公共的な画像がDVD購入者の所有欲と競合するはずがない。したがっていくらニコニコ動画が普及しようとDVDの売り上げが減るはずがない。いや、逆にニコニコ動画の普及によって人気作品は放送されない地域にもさらに裾野を広げることが可能になり、DVD購入層の所有欲を喚起する可能性はいっそう高まるのだ。
ニコニコ動画のような30分アニメ放送を丸ごとアップできる映像媒体は「良貨
」を駆逐する「悪貨」足りえない。逆に「良貨」の価値を促進させ、その普及を広げる役割を果たすのだ。テレビ局が地上デジタル放送を普及させれば中央、地方の差なく、アニメを享受できるようになる。しかし、ニコニコ動画は現行の地上デジタル放送を鼻で笑うほどの先進性を備えている。ある意味恐ろしい分野である。
次回(いつだよ?)はニコニコ動画こそが、真のマスコミュニケーションではないか」という命題について触れてみたい。