「必殺技」の完成について

先日、LDさんのところにコメントしたのですが、
2008-08-05:サイバーコップ:ドルーピー - 今何処(今の話の何処が面白いのかというと…)
コメントしているうちに試論のようなものが出来てきたので、ここで述べさせていただきたいと思います。
今回のテーマは「必殺技」がフォーマット化されるまで、です。
必殺技のはしりとして一番に挙げられるのは『ウルトラマン』です。1966年に始まったこの番組は、特撮史のみならずアニメ史および漫画史にも莫大な影響を与えた作品でした。鉄腕アトム鉄人28号と並んで「消費されるキャラ」およびそこから派生する「マーチャダイジング」を確立した作品としても、事件→バトル→解決という30分フォーマットを完成させた作品としても。
今回のテーマに沿えば、必殺技を完成、定着させた作品ということになります。それまでのヒーローにも当然、必殺技はありました。アトムの体当たり、ゴジラ放射能なんかもそれに当たります。しかし、それらに固有名詞があったかといえば疑問です。あったとしても作品オリジナルの名称ではなく既存の武器や物質、またはプロレスなどの技の名前だったと考えられます。しかしウルトラマンは違いました。
スペシウム光線*1、八つ裂き光輪*2。これらは地球上でただ一人ウルトラマンのみが使用できる光の技なのです。かつ、その技が画面上で使用されたとき、敵は必ず死ぬ。二代目バルタン星人みたいに予習をしてこない限り。まさに「必殺」技なわけです。
ウルトラマンによって確立された必殺技の要素として、この二つが挙げられることがわかるでしょう。
1.作品固有の名称が使われる
2.技のモーションが出たら敵は必ず死ぬ

この路線を発展させたのが1971年に放映が開始された『仮面ライダー』です。
仮面ライダーではキック技をメインとした必殺技が展開しましたが、その特徴として必殺技の種類の豊富さにあります。平成ライダー仮面ライダーブラックを見慣れている人は奇異に感じるかもしれませんが、仮面ライダー1号がライダーキックを使って倒した相手は蜘蛛男、かまきり男、蜂女、コブラ男、海蛇男、ギリーラ、ドクモンド、ミミズ男、ふくろう男、セミミンガ、カブトロング、カミキリキッド(映画)、ギラーコオロギ、ガラガランダ、ウツボガメス、ワシカマギリ、ネコヤモリ、サボテンバットの18匹と、1号が登場した全59話中、18話ぐらいなのです。これではライダーヘッドクラッシャー*3や、ライダーニーブロック*4、ライダー月面キック*5あたりと連立しなければ与党になれません。
あとはライダー電光キック*6、ライダー稲妻キック*7などのキックの変化形やライダーきりもみシュート*8、ライダー投げ*9等の投げ技の変化形になります。つまり今と違って決め技の名称の「定型化」はなされていない、と。
実はウルトラマンにもこの傾向はあり、特にウルトラセブン以降はアイスラッガー*10エメリウム光線*11、ワイドショット*12の使いまわしなど、メイン技+周辺の技といった傾向がはっきり見られるようになります。ウルトラマンである程度定型化されたかに見えた「必殺技」はそのフォームは共通でありながら名称による多様性を見せるに至ります。
60末から70年代前半にかけての特撮は前述の1、2の特徴を受け継ぎながら、固有名詞の増加に伴った、決め技の多様化。つまるところ「技のデパート」の様相を呈していきます。
しかし一方で、定型化した技を律儀に行い続ける一派が70年代に存在しました。『人造人間キカイダー』です。
この作品では番組後半に新技「銀河ハリケーン*13が開発されるまで、一貫して「デンジエンド」*14をとどめの技に使ってきました。そして、現代の必殺技界に最大の影響を与えているのはこのキカイダーの流れなのです。
このデンジエンド。キカイダーが上空で腕をクロスし「デーンジエンド」と叫びます。すると敵の顔が一瞬映し出され、次のシーンにはバラバラになった機械の部品が挿入され、敵が死んだことが示されます。
この一連のシーンの中、その回ごとにオリジナルなのは挿入される敵の顔のみで、残りのシーンは大体が使いまわしのバンクシーンとなります。この「バンクシーン」と必殺技の出会いが、後の必殺技界に多大なる影響を与えていきます。
70年代を通して、仮面ライダー式とキカイダー式の方法論は並存していきました。なにより面白いのは仮面ライダー自体がこのニ方式を交互に使い分けていたことです。
仮面ライダー(仮面ライダー式)→V3(仮面ライダー式)→X(キカイダー式との並存。後半は完全にキカイダー式に移行)→アマゾン(折衷式。技は固有に近いが、バンクシーンではない)→ストロンガー(前半キカイダー式、後半ライダー式)→スカイライダー(前半キカイダー式、後半ライダー式)→スーパー1(バンクシーンとしてはキカイダー式だが、技の豊富さではライダー式)
かように昭和ライダーの歴史は二つの様式のせめぎ合いで織り成されているのです。ここらへんの詳細なデータは私の初期のブログ連載を参照にしてください。
「仮面ライダー必殺技の型と変遷」の検索結果 - マントラプリの生涯原液35度
このせめぎあいに終止符を打ち、最終的にキカイダー方式に勝利をもたらしたのが、大鉄人17および東映版・スパイダーマンを嚆矢とする変形ロボット路線(バトルフィーバーJで戦隊路線に合流)なのです。
ことにスパイダーマンにおける変身ロボ・レオパルドンの功績は計り知れないものがあります。その当時、変形ロボもののノウハウ(遠距離攻撃に関してはジャイアントロボ以来の蓄積あり。ここではロボ同士の直接格闘を指す)が確立しておらず、レオパルドンが登場するということは「瞬殺」を意味しました。どんな強敵、たとえばラスボスのモンスター教授であろうともレオパルドンが出現したとたん、ソードビッカーによって「瞬殺」。この「瞬殺」がバトルフィーバーJデンジマンでの巨大ロボ戦闘において必殺技の定型化、およびバンクシーン化をもたらします。
そして、その文化が等身大ヒーローにフィードバックされました。そう宇宙刑事シリーズの決め技「レーザーブレード」*15を以って、
1.毎回ラストは定型化された技
2.モーションはバンクシー
3.光学撮影による迫力ある演出

というキカイダー式は完成を見るのです。これが我々のよく知る「必殺技」というヤツです。1982年の宇宙刑事ギャバンの放送開始から2000年の『仮面ライダークウガ』による仮面ライダー式のルネサンスリバイバルまで約20年間、キカイダー式は政権を維持し続けることになります。私たちが知る、馴染んでいる毎回おんなじ種類、エフェクトが支配的な「必殺技」の歴史とは、案外浅いものだったのです。
で、現在の状況ですが、「キカイダー式」の定型の破壊が終わった後の混乱期にあります。
平成ライダーは技は「キカイダー式」で定型化しているものの過剰なパワーアップの増加による多様化。また技の名前を叫ぶのがダサいという悪しき風習(響鬼ぐらいからじょじょに改善)による技の個性化、分類化の失敗というどっち着かずの中途半端な状態に置かれています。
一方戦隊モノではアバレンジャー以降のアタッチメント方式による決め技の多様化により「ライダー方式」に近くなっています。その一方でライダー方式には共通してあった「キック」という素地、共通項がない分、その分類化を困難にしています。(巨大ロボが増えたダイレンジャーからこの傾向はありましたが、「大圧殺」は今でも好きな技です)
私が平成特撮に対して不満なのは、上記の「技」のニ流派の歴史を踏まえつつ、作品の中で、たとえマーチャダイジンがあろうとも揺るがない「技」を作るためにはどうすればよいか。という検討が十分に為されていないよう感じる点です。また、子供が再現したり、技名をコレクションしたりする際の分かりやすさという配慮も欠かしてはならないと思います。技の名前を言わないとか、嫌です!(個人的やがなっ)
特撮は技と共に生まれ、技とともに死ぬ。そういう業(わざ)だと、思っていますから。

*1:ウルトラマンの必殺技。バルタン星人に破られるが、ほぼ無敵

*2:バルタン星人も余裕で屠る切断技。頭からキレイに二枚おろしにする

*3:ライダーシザースの強化系。新1号ライダーのデビューを飾った

*4:アブや蚊などの害虫系怪人に絶大な効果がある技

*5:カナリヤや鼠など、伝染病を蔓延させる動物に効果のある必殺技

*6:トカゲロンに対して使用したのが唯一

*7:ライダー電光キックの強化系と思いきや、ライダー反転キックの強化系だった

*8:新1号随一の必殺技。宿敵・死神博士を屠った。アンチショッカー同盟篇最大の敵・エイドクガーに対して2号がこの技を放ったときは感動で夜も眠れなかった

*9:蝙蝠男に使用。技名は言ったような、言わなかったような

*10:ウルトラセブンの一般的な技。怪獣を完膚なきまでに切断する。ウルトラブレスレットやギロチン系(ヴァーチカルギロチン、ギロチンショット等)のアーキタイプ

*11:ウルトラセブンの平均的な光線技。イマイチ影が薄い気がする

*12:セブン最強の技との触れ込みだが、雑魚っぽいユートム数匹相手に連打しているのでよくわからん

*13:ハカイダー戦で初めて見せた必殺技。相手の頭上を旋回しながら連続攻撃を繰り出す

*14:キカイダーの必殺技。ダーク破壊部隊のアンドロイドの回路を狂わせ自壊に導く

*15:宇宙刑事シリーズの必殺技。技名はそれぞれの刑事によって違う。ギャバンギャバンダイナミック。シャリバンシャリバンクラッシュ。シャイダーシャイダーブルーフラッシュ