無知が知

遅ればせながら買ったので書評を。

ファイブスター物語 (12) (ニュータイプ100%コミックス)

ファイブスター物語 (12) (ニュータイプ100%コミックス)

今回もすごいね。ダグラス・カイエン。死んだはずだよオトミサン*1ってぐらいちょくちょく出てる。あのクドイ顔でニュータイプの表紙になったこともあるし、私の中では人脈的にもこの人が主役ですな。
でも今回話したいのは彼ではなく、ワスチャ・コーダンテ(通称ちゃあ)についてです。この巻を読んで、彼女は今までの永野イズムから脱却した唯一無二の存在であることに思い当たった次第。
えー、永野イズムとわけわからん言葉で定義づけましたが、ファイブスター好きの皆さんは知っての通り、この話はおとぎ話なのです。おとぎ話ってぇのはすなわち、醜いアヒルは白鳥に、灰かぶり女は城のお姫様に、蛙は王子にっていうあれ。貴種流離譚ってやつでさぁ。ファイブスターは一巻からこのセオリーをずっと守ってやってきました。女装趣味(?)のマイトが宇宙帝王(一巻)というのに始まりまして、みすぼらしいパンピーがたちまちに大権力者の正体を現すという水戸黄門パターン。これが頻発したため、十二巻現在では最強と貴種で紙面が溢れ返り、ちょっとしたことでは驚けなくなりました。ドラゴンボールより深刻なインフレです。ついにはモーターヘッドまで永野イズム・・・おっと、買ってない人のためにこれ以上は伏せます。
そんな貴種だらけの世界に突如現れたのがワスチャ・コーダンテです。彼女はアマテラス家の親藩にあたるコーダンテ家の次女でアイシャ*2の妹です。「十分貴種やんか」というツッコミはもっとも。しかしこの貴種にあふれたファイブスターの世界ではちっとも驚くに値しないといえばしない。*3それより注目すべきは、彼女は自分が貴種であるという自覚を持たずにいるということなんですね。達観してるというよりただのボケなんですが、そのことが彼女に幸福をもたらしているように私は思います。
姉のアイシャや同じくアマテラス家親藩のサリオンはちゃあの不幸な境遇に同情します。貴種として生まれついた辛さ、騎士としての定め。彼らはその身分ゆえ痛いほどそれを実感しているからです。しかも現実の荒波に対し、ちゃあは政治力、騎士としての戦闘力ともにゼロ。二人の心配もうなづけます。しかしその心配は無用なのではないでしょうか?ちゃあは多分分かっていません。五つの星を滅ぼしうる星団最強の軍事力をもつアマテラス家についても、そこにおける自分の責任の重さについても。彼女はずっと誤解し続けているのではないでしょうか。
永野イズムは貴種をパンピーと誤解するところから始まります。しかしその誤解はいつかは解けます。これがちゃあの場合は貴種である自身をパンピーと誤解するところから始まるのです。これだけ貴種や最強があふれる中、当然作品世界のコモンセンスは貴種や最強の世界となっていきます。アイシャもサリオンもこの世界に捉われ、この世界の論理で「アマテラス家の重さ」「騎士としての役割」を考え、ちゃあに同情します。しかし、そんなことを考える奴らばかりがこの世界にあふれているため、それは常識人の発想なのです。貴種の“貴”はもはやレアという意味の貴ではない。彼らは珍しくない常識人で、ちゃあこそが自己をパンピーと誤解し続けるレアな存在なのです。最強に近いファティマも、最強のモーターヘッドも彼女の誤解の世界に入ればすべて自分と等身大の存在へ。永野イズムを逆行するちゃあはまさに最強唯一。無知の知、いや彼女の無知こそが知なのです。*4

*1:富野由悠季のあだ名

*2:十二巻連続登場でこれまたアマテラスを差し置いてファイブスターの主役

*3:・・・わ、わかりませんけどね。これからどうなるかまでは・・・。キャラクターシートになんか意味深なこと書いてるし

*4:これ以上ちゃあを貴種にしないでほしい・・・。まあどうなってもこのまま誤解し続ければそれでいいんだけど、ネ