春雨

春雨は。みんな知ってる鍋の具だ。語源は今降るこの雨だ。
太い、目に見える雨。春雨。ずるずる、ずるずると大地に落ち行く幾重の筋。
空気は生温い。私の靴裏も生温い。春は、陽気をまとって私のまわりをうろうろする。温かく微笑み、わらい、さそう。
不愉快である。
まとわりつく陽気はきっと誰をもその気にさせる。その気がないのに、ふと、その気になる。誰かに呼ばれた気がする。きっと気のせい、陽気のせい。
だが、最後までそう気付かない人もいる。よくないよ。雨なのにさそうの、よくないよ。かたちなく。どこかにつれてくの、よくないよ。
陽気は輪郭をぼやっとさせるよ。かたちをふやふやにするよ。夏も姿をなくすほど、ふやふやするけれど、人はわかって生きている。だから夏はいいんだ。でも、春は油断できない。下手にさむいものだから、人は気づかず、ふやっとするから。
春雨は油断ならない春運ぶ。