あしたのジョーはヤバイ5−力石は死んだ、何故だ?ー

書け名前を。 「徹、力石」 流れる雲に おいらの指で
聞けブルース 一人歌うよ 涙は誰にも 見せてはならぬ

                             ヒデ夕樹力石徹のテーマ

あしたのジョー(5) (講談社漫画文庫)

あしたのジョー(5) (講談社漫画文庫)

力石徹の死。それは一つにマンガの中だけに留まらぬ「現象」でした。
上記のテーマソングの作詞者・寺山修司によって葬式が開催され、リングの上で弔辞が読み上げられました。彼の死はリングを、マンガを飛び出したのです。それは「現実」となった。
そしてマンガの中、あしたのジョーというマンガの中において「力石徹」の死は「セカイ」の喪失をあらわしました。
ジョーにとってのボクシング。その情熱を生み出したのは力石との出会いでした。自分に立ちはだかった壁。その壁をリングに這わせるため、ジョーは段平の指導を受け入れ、ボクサーとなったのです。ジョーの敵にして目標。力石徹の死までのあしたのジョーのセカイは力石によって形作られていたのでした。
最初は壁の如く立ちはだかっていた力石は、ジョーを己と対等の相手と認め、その世界へと降りていきます。、厳しい減量。ジョーと同じバンダム級での勝負をつけるため、力石は己の体を限界まで酷使し続けます。そして幽鬼の様なやせさらばえた姿となり、ジョーに挑戦します。
長い沈黙の末、必殺のアッパーでジョーをマットに這わせた力石。そして一言。

おわった・・・。おわった・・・なにもかも・・・                                              力石徹

その言葉の通り、リングに倒れこむ力石。ジョーは、目標とした、壁だった力石に敗れたジョーは、控室でその幸福を噛み締めていました。

じょうだんいうない。おれは幸運だぜ…
血へどをはきながら、あれほどの男ととことん打ち合うことができたなんて・・・
おれはしあわせだと、いま心底思ってるんだ…
                                矢吹ジョー

目標との真剣勝負。勝敗はどうあれ、その充足した世界にジョーは浸っていました。
その瞬間、届く力石の訃報。
ジョーが、試合中にジョーが放ったテンプルへのパンチが力石の命を奪っていたのです。
鳴り止まぬ、ジョーの叫び。そして狂気に彩られた血走った眼光。
そう、これを境にちばてつやの描くジョーの世界は狂気の、淀んだタッチと眼光が支配する修羅の世界へと変貌していきます。そのはじまりを告げるゴングがジョーの叫びとそのときの目の描き方、でした。
力石の亡骸の元へ駆けつけるジョー。そこでは白木葉子が待っていました。憔悴して項垂れる葉子。彼女は力石の命を縮める羽目になった減量に、蛇口に針金を巻くことで加担していたのでした。
直接命を奪ったジョーと、間接的に命を奪った葉子。力石を失った「あしたのジョー」は、それでもなお力石の影をボクシングと言う形で引きずり続ける、二人の共犯者の足取りを追っていきます。
力石は死ぬことで、ジョーの、そして葉子の「あした」を定めてしまったのです。
つづく