ヘルメストリスネギヒトツ

ガニメデからかえって久しぶりに本を読みました。

薔薇の名前〈下〉

薔薇の名前〈下〉

え、感想?そうですね。この作品はキリスト教をはじめ、あらゆる宗教が内包する異端と、その意味について、さまざまな対立概念を提示しつつ述べていくという推理小説で、京極夏彦中禅寺秋彦というキャラを考え出すに際して、本作品での探偵役を務める修道士・ウィリアムが用いる記号論的な語り(作者のエーコさんが記号論の学者さんなので)を大いに利用しています。また、キリスト教から見れば異教の学者であるアリストテレスの使い方が秀逸な作品でもあります。キリスト教の影に存在するアリストテレス。彼こそが錬金術やネオプラトニスムやらのキリスト教の影に見えるギリシア、そしてカルトの総元締めであるという発想には賛辞を惜しみません。
まあ、そんなことは実はどうでもいい。この作品に対して私が最も言いたい事はアドソ萌えということです。
彼(男)はベネディクト会に属するドイツ人のぼんぼん修道士で、ウィリアムを師と仰ぐ本編の語り手です。彼はホームズに対するワトスンくんよろしく、イギリス・バスカヴィル出身のこの探偵に助手としてこき使われるわけです。そう、まさに彼はバスカヴィルの犬。ですが恐怖の魔犬と違い、彼はこちらがもだえ苦しむほどにコケティッシュであります。かつて小説でこれほど男に萌えたことはありません。
師匠にたしなめられ、すぐに前言撤回するアドソ。
宝石の輝きにわれを忘れそうになるアドソ。
童貞を喪失してうろたえるアドソ。
・・・なんかイイです。このキャラ。この話は老境になった彼の独り語りの型式で叙述されているのですが、そんなことを含めても十分萌えられる快作です。本当はこんなお勧めの仕方をする本ではないのですが、あしからず。