愛でっ!空がっ!落ちてくるぅ!!

こんなん呼んでみました。

愛のひだりがわ

愛のひだりがわ

タイトルと表紙からほのぼのとした話なのかなと勝手に妄想していましたが、そこは筒井康隆松永久秀と戦い、織田信長明智光秀豊臣秀吉の間を渡り歩いて元の木阿弥を防いだ男・筒井順慶の子孫だけのことはあります。彼が描いたのは殺伐とした北斗の拳並みの世紀末世界でした。
核兵器が炸裂した199×年なみに都市は崩壊していないものの、人心のすっかり廃れてしまった日本。モヒカンやデブがグヘグヘ笑いながら出てこないかわりに、自警団や暴走族が武装して拳銃を乱射しています。いったい日本に何がおきたのでしょうか?*1作中では詳しく触れられていませんが「日本はこのままだとこんな風になっちまうぞ」という筒井氏からのメッセージが込められているのでしょう。*2
主人公・月岡愛は人より過剰な容姿と自意識と防衛本能を併せ持つ、筒井ヒロイン*3お馴染みのキャラ造型です。母親の死後、アゴで使われ、無賃労働させられていた定職屋を逃げ出し、父を求めて旅に出ます。行く先々で彼女を救う仲間ができ、愛は次第に一人の女として成長していきます。こう書くとビルドゥングロマンスと思いがちですが、ここは世紀末世界!そんなぬるい展開はありません。仲間以外はみなです。しかも大概が武装して襲ってきます。一章に一人は死者、ないしは手ひどい負傷者が出ます。いったい日本にな(後略)。
果てしない死闘と、それによる仲間の死、豚箱入り、帰郷という悲惨な別れ*4を乗り越え、愛は魔都・東京へ。神奈川あたりでの愛の東京に対するビビリようから私も
「すわ、きっと東京はドラゴンヘッドのような異世界になってるにちがいない!!アブラカタブラシャモダブラー*5
と、びびりつつページをめくったのですが、
・・・ふつーの現代東京でした。ふつーに神田に出版社が何社もあって、サイン会もふつーに行われています。壊滅的な打撃を食らったのは地方だけのようです。それまでは一日一回は生命の危機にさらされていた愛も、この町でのうのうと成長します。食い詰めたら東京に行くというのは今も昔も変わらないようです。
この先も悪人を愛と強敵(とも)たちが最近の京極夏彦*6ばりの作風で倒したり、愛の父親がハンゲルグ・エヴィン*7なみの外道だったりといろいろあるのですが。まあ、長くなるのでオミットします。感想はいろいろあるのですがひとつだけ言いたいこと。
この作品の人間は基本的に現生を持って移動します。そのため数千万をボコボコに殴られ、強奪されるというアリエネー事態も勃発するわけです。愛の母親のなくなる前の言い草やこのような事件から、この時代には日本の金融機関は破綻してしまったと私は考えます。その一方で神田には出版社が多数あり、サイン会が行われ、なおかつ詩の賞も何個もある、と・・・
おい、文壇守るヒマあったら銀行守れよ。

*1:知っている方なら快傑ズバットの世界を思い浮かべていただければよいでしょう

*2:武論尊も数十年前から原哲夫三浦建太郎を使って悲惨な未来日本を描いているが・・・

*3:七瀬

*4:・・・最後のは悲惨か?

*5:宇宙刑事ギャバンの敵

*6:あ、筒井康隆の方が先か

*7:ガンダムの主人公ウッソ・エヴィンの父親。ウッソをコンバットマシーンに教育しておきながら責任をとらず、なおかつ特攻の際一人だけトンズラした外道。たぶんまだ生きている