僕たち、まけるもんかっ!!(ガス人間第一号ヨリ)

今日は私の好きな俳優の書いた本を紹介します。

クロサワさーん!―黒沢明との素晴らしき日々 (新潮文庫)

クロサワさーん!―黒沢明との素晴らしき日々 (新潮文庫)

あ、黒澤明*1ではなく著者の土屋嘉男(つちやよしお)氏のファンなのです私。氏は山梨県塩山*2の出身で、なにやらうっすらと金持ちのような気がする戦国武将の末裔です。東京で劇団に入っていた彼が黒澤明と出会い、「七人の侍」に抜擢されるエピソードから、二人の終生の交流を面白おかしく書いた傑作です。
中でも僕が好きなのは黒澤明本多猪四郎*3、土屋嘉男の三人の触れ合いの描写です。黒澤明本多猪四郎山本嘉次郎の門下で兄弟弟子なのですが、二人とも世界に通用する作品を生み出し、発信し続けました。なにより二人の共通して起用した役者が土屋嘉男なのです。*4その三人が一同に介し、談笑している。この壮絶なシーンを想起するだけで私はブルブルしてしまいます。
そして土屋氏の感性がまたいい。夢と現実を自由に行ったり来たりできる感性を持ちながら、なお地に足がついた“食”というものにこだわり続ける。その質実剛健たる自由さが黒澤明の感性と触れ合い、はぜる。二人の日常会話は穏やかで愉快でありながら、現実を軽く凌駕するスケールを持ちます。これは黒澤映画の解説書としてみるよりは、土屋嘉男と黒澤明という二つの個性が交じり合った化学反応の著作というべきでしょう。それでいて、いやそれだからこそ他のどんな黒澤明の評伝よりもスリリング。

*1:背が高い映画監督

*2:中里介山の小説のタイトルとなった大菩薩峠の近くの市。武田信玄菩提寺恵林寺があったりする

*3:ミフネの顔がもっとも熟れていた「野良犬」でミフネの後姿役を熱演(?)した映画監督。というかゴジラの監督、ガス人間の監督

*4:志村喬もだけどさ