5.逃走
「♪スペースランナウェイ、イデオーン、イデオンー」

ということでイデオン元祖ツンデレことイムホフ・カーシャのイラストで始まりましたこのコーナー。今回のテーマは逃走です。レ・ミゼラブルや逃亡者の昔から、逃走劇は最もサスペンス性のあるドラマでした。富野作品もその例に漏れず、逃げます。逃げて逃げて逃げまくりです。


海のトリトン…ポセイドン配下から世界の海を又に逃げ回る。序盤は基本的に逃げ続きの負け戦。
ダイターン3…メガノイドのため火星から逃れる。
ガンダム…(ブライト)ノアの箱舟の如く。変態仮面→坊や→オッサン→塩沢兼人→また変態仮面から逃げる。
イデオン…バッフクランから文字通り「スペースランナウェィ」するイデオンとソロシップの面々。
ダンバイン…ドレイク軍から逃げつつ、戦力補強なゼラーナの皆さん。
キングゲイナーシベリア鉄道や都市から文字通り「エクソダス」するヤーパン一行。


かように命の限り逃げ続ける方々ばっかりです。積極的に攻めてやろうという気概は物語後半より生まれ、それまではひたすら逃げの一手。「君は生き延びることができるか」*1という危機的状況が続きます。Vガンダムの歌詞にある「♪終わりのない ディフェンスでもいいよ」という歌詞とも合致しますね。しかしVガンではゲリラ作戦によって積極的な攻めを展開しているので、上記のパターンには該当しません。なんとも皮肉。
このパターンが頻出するのは第一に主人公たちの絶対的不利からの逆転を演出するためにあるのでしょう。最初から互角の戦力ではなく、知恵と勇気とオーラぢからで打開するところにカタルシスは生まれるのです。と、同時に「攻められている」被害者なので、語らずとも自己を正当化できる点も、このパターンの特色といえましょう。何となく日本人的な「自衛」意識の産物な気がしますね。
また、このパターンは場面の転換を頻繁に行わせ、視聴者を風景的にも飽きさせません。①宇宙→②地球→③宇宙というガンダム作品ではお馴染みの移動コース(通称パターンT)*2もこの逃亡劇の賜物なのです。これは画面に変化を出すとともに、地球を「訪れる」という、宇宙時代の人類の意識変化を語らずとも雄弁に表しています。実写ではとても表現できなくても、アニメなら色を塗るだけで世界が変わるので、アニメとは場面転換が行いやすい分野といえましょう。
それに一期一会を演出するのにも逃亡劇は役立ちます。逃げる先々で力を貸してくれる人、追い出そうとする人など、さまざまな人との出会い、別れが待っています。たいていの場合逃げてきた主人公一味のとばっちりを喰らい、無残な最期を遂げるのが富野作品における出会いの定石ですが、なにか?

*1:永井一郎によるガンダムの予告ナレーション

*2:私が勝手につけた造語。Tは富野のT