サンタ特集第三章「犬神佐清は二度三度死ぬ」

今朝、宇多源氏くん、真言僧くんと「犬神家の一族」を見に行きました。
いやぁ、市川崑監督も今年で91。これを期に引退するとの話もちらほら、市川ファンであり、金田一ファンである私としては見ないわけには参りますまいて。で、感想ですが「おもしろかった」。毎度お馴染みの眩暈のようなカメラワーク。奇抜な構成。市川崑、まだまだ健在です。
今回は金田一シリーズでは「女王蜂」以来の加藤武*1仲代達矢*2の共演(画面上で一緒に演技することはないが)が見られたのが嬉しい。私のいっちゃん好きな日本映画は黒澤明の「天国と地獄」なのですが、この二人は神奈川県警の警部役として出ているのです。今回、加藤武は相変わらず警部ですが、仲代は怨霊役です。あのギョロっとした黒曜石のような目で枕元や背後に立つ。もう怖いなんてもんじゃありません。「乱」のラリった仲代を思い出させます。仲代が演じた犬神佐兵衛役は、最初の「犬神家の一族」(76年)では三國連太郎がやってるんですね。あの二人はキャラが似てるので「いかにも」な配役です。
加藤武は唯一の金田一シリーズ皆勤賞ですね。氏が演じる等々力警部の「ヨォーシ、わかった!」はテレビでパロディ化されるぐらい金田一シリーズに欠かせないものですな。で、今回も三回「ヨォーシ、わかった!」を披露してくれるんですが、バリエーションがちと違う。一回目、二回目の「ヨォーシ」は手刀のようにした手を下から斜め上にせり出す「ヨォーシ」です。旧作に比べていささか鋭い。老いてなお先鋭的な加藤武。この改良型「ヨォーシ」にはそんな氏の意気込みが垣間見えます。最初の二回はこの「ヨォーシ」改が繰り出されるのですが、最後の一回は我々にお馴染みの手をやや開いておおらかに前に突き出す「ヨォーシ」をやってくれます。一粒で二度おいしい。そんな加藤武の「ヨォーシ」でした。しかし老いてますますプロイセン軍人っぽくなりましたな、加藤武。ドイツ映画に出ても違和感ありませんね。
過去の金田一シリーズに出演した役者といえば、他には大滝秀治。神官役として国宝・仁科神明宮*3に鎮座ましましています。長野県にある仁科神明宮は、ちょうどこの夏に623君と行ったので感慨深いものがあります。あそこの神主が大滝秀治だったとは。氏と金田一だけは前作と同じ役です。ただ、那須ホテルの主人役が原作者・横溝正史から三谷幸喜マイナーチェンジされていたのはどうかと・・・。
で、松・竹・梅の犬神家三姉妹は今回も本気全壊です。萬田久子(梅子)が「ぎぇぇえー!!」と吠えれば、松坂慶子(竹子)はラリってザンバラ髪に、富司純子(松子)はもうボロボロになってうなじも人体模型のようにギワギワと脈動しています。最初は服も髪もカチッとしていた三姉妹が、後半は幽鬼の如き無残な姿になるのは恐ろしさを通り越して滑稽ですらあります。凄まじい。「悪魔の手毬唄」でもそうですが、分別ある中年の女性が剥き出しの生身になって吠えたける。そのおぞましさ、あさましさが市川金田一の本領だと思います。なので男性的な「獄門島」はあんまし好みではありません。・・・でも女優としては楽しいんだろうな、壊れる演技。フカキョン松嶋菜々子などの若手女優の中では唯一ラリって、ヒキガエルを持ってうろうろしていた奥菜恵がとっても楽しそうだったので。
で、スケキヨ*4。今回マスコット化されすぎ・・・。さながら本映画のサンドイッチマンです。スケキヨくんとか名づけられてて可愛い。まかり間違ってあのマスコットにつられた子供が唇をクチャクチャさせる蒼白火傷男の実態を見たとき、ヒキツケを通り越してショック死しないかが不安です。少なくともクリスマスにカップルが見る映画ではないことは確かです。血がビシャビシャ飛びますし。
最後に。本作で金田一シリーズは終わりでしょう。角川映画第一弾として、若手実業家・角川春樹を世に送り出した前作「犬神家」から30年。角川映画、角川文庫に金田一が与えてきた功績は莫大なものがあります。これが成功しなければ「時かけ」や「ハルヒ」も制作されることはなかったでしょうし、ライトノベル大手である、角川のファンタジー系文庫や電撃文庫も誕生することはなかったでしょう。もちろん幻冬舎も生まれなかった。メディアミックスも発展しなかったでしょうし、ゲーム雑誌やゲーム業界もここまで成長したか・・・。角川の興隆を決定付けた「犬神家」。映画史にとどまらぬ大きな意義を持ったこのシリーズのクライマックスに立ち会えたことは光栄です。
最後に金田一耕助がこちらに向かって
「ありがとうございました」
と頭を下げます。野辺の道を彼方へと、彼方へと去っていく彼の背を見送りながら、ひとつの時代の終わりを感じたのでした。

*1:黒澤監督の「悪い奴ほどよく眠る」でデビュー。近年では釣りバカの部長役で有名

*2:黒澤監督の「用心棒」「椿三十郎」でミフネの前に立ちふさがる敵役を好演。ギョロ目が怖い

*3:劇中の那須神社として使われた国宝建築。最古の神明造

*4:ラバーマスク男