宇宙鬼1

今回はLeafビジュアルノベル第二段として「痕−きずあと−」を取り上げ、そこに見られる「雫−しずく−」と比較しての発展部分とのちの作品に与えた影響を考えてみたいと思います。

柏木四姉妹の四女・柏木初音を描いてみました。相変わらず年齢不詳です。新城さんから受け継いだ水無月モミアゲ*1と、どっから出ているのか不明なアホ毛*2が眩しいですね、ハイ。
さてこの「痕−きずあと−」、リーフのビジュアルノベル第二段として発売されたものです。今作は前作の内容をさらに発展させ、ビジュアルノベルの可能性を掘り下げた一品です。そこらへんの詳しい説明は次回以降に回し、今回は私とエロゲーの出会いについて「痕」を通して述べて行きたいと思います。
「私は如何にしてエロゲーを憎むことをやめ、愛するようになったか」(・・・まぁ、憎んじゃいないですけどもね)
ウン年前の高校時代。私は演劇部員として日夜舞台に立ち、稽古に励んでおりました。・・・というのは嘘で、部員がいないときは友人の623さんやこまきさんの部活に混じって爛れたイラストばかりを描いておりました。そんなとき、友人から借りたゲームCDの中に「痕」の曲が入っていたのです。あれを聞いたときの衝撃は忘れられません。私が基本的に購入するCDで、スクウエアのものがほとんどでした。「痕」本編よりも先にその音楽に触れ、いやがおうにもその内容に興味がわくのでした。キャラクターに関する情報も友人から断片的に入ってくるものの、我が家にはパソコンがなかったのでプレイできず、生殺しのまま大学生活を迎えました。
大学に入学してようやっとパソコンを購入。もちろん最初にやったソフトは「痕」です。ただ、このゲーム陵辱シーンが大変多く、しかも鎖モノなのでジャラジャラジャラ音がして、なかなかアレでした。しかし面白かった。
このお話は主人公とその従姉妹である柏木四姉妹が話の中心になります。父親の死によって従姉妹の実家に呼び寄せられた柏木耕一(かしわぎこういち)。彼は四姉妹と同居、両手に花の生活を送ることになります。しかし、日夜見る夢。その中で繰り広げられる自分による陵辱事件。そして現実に起きる同じ手口の犯罪。果たして犯人は自分なのか?
というのが大まかな内容です。前回のサイコ調の作風を引き継ぎ単純な恋愛ゲームにしないところが初期リーフの特徴といえるでしょう。もっとも恋愛ゲームにしても後世に多大なる影響を残す二作品を生み出すのですが、それはまた後の話。
さて、耕一と同居する四姉妹が攻略の対象となります。その内訳は


柏木千鶴
…長女。両親を亡くした後一人で旅館を切り盛りする。天然ボケ。
柏木梓 …次女。口より先に手が出るおせっかい焼き。料理がうまい。
柏木楓 …三女。ムッツリして主人公に対して心を閉ざしがち。おかっぱ。
柏木初音四女。朗らかな笑みで癒し担当。年齢不詳。


この四姉妹、水無月氏が絶妙なキャラ付けをしています。本編をプレーしてまず感心したのがそこでした。長女、四女が長髪で次女、三女が短髪というふうに書き分けがされています。また髪の色は長女(黒)、三女(青)が寒色、次女(茶)、四女(黄)が暖色とこちらも先ほどの髪型とザッピングするように個性化させています。*3
シナリオにおいても個別化がされており、長女、次女が純愛系のHイベント。次女、四女が陵辱系のイベントとシナリオ面での書き分けも行われています。「痕」のシナリオは一人を攻略すれば次の主人公が攻略できる一本道です。この一本道の利点については明日述べますが、その攻略順序は長女〜四女と長幼の序列に従っています。面白いことにプレイ順は長女〜四女なのですが、語られているシナリオのなかの出来事の古さは四女〜長女と逆なのです。これは
①柏木一族に伝わる鬼の血による事件と悲劇(千鶴)
②悲劇に至る前の事件の解決(梓)
③鬼の一族の歴史(楓)
④鬼の一族の正体(初音)
以上の順番によっており、幾重にも張り巡らされたザッピング魂が「痕」の世界を魅力的なものにし、キャラクターたちの個性を浮き上がらせているのでしょう。
痕−きずあと−」は柏木一族に伝わる鬼の血にまつわる「伝奇ノベル」であり、その影響を最もこうむったのがTYPE-MOONの処女作「月姫」です。これは多くの方々に指摘されていることですが、
①自分が自分の知らぬ間に犯罪をしているのではとおびえる主人公。
②異形のものとの戦い。
③シナリオが基本的に一本道であること。
①、②はしばしば指摘されています。しかし最大のポイントは③であり、自分の周囲を取り巻く女性キャラクターたちの内情や目的が回を追うごとに一人ずつ明らかになってきて、作中世界が広がりを見せていく。これはそれまでのアドベンチャーゲームの同時平行シナリオにはない表現の方法で、プレイヤーは作者によって決められた手札の切り方によって、最も効率良く、かつドラマティックにゲームを体験することができるのです。これを発明・確立したのは「痕」です。
しかし読み進める順番が決まっているのならば、マルチシナリオの醍醐味である分岐を楽しむことができなくなるのではないでしょうか。つまりこの方法はゲーム性を否定するものです。そう、この作品のメルクマーク。それは「ゲーム性の否定」にあったのです。分岐無しゲーの集大成「ひぐらしのなく頃に」へと繋がる道は「痕」によって付けられたのです。そしてそれこそがLeafを「エロゲー中興の祖」と私が呼ぶ所以なのです。明日はゲーム性というテーマで「アドベンチャーゲーム」と「ビジュアルノベル」の比較を行ってみたいと思います。
つづく

オマケ。柏木家の長女・千鶴さんでし。

*1:原画家水無月徹氏による特徴的なモミアゲ。このモミアゲを持つキャラがファンディスクにおいて頂点に立てるというジンクスがあったり、なかったり

*2:これを以ってアホ毛開祖とする説もあるが、アトムはどうなる?・・・あれはツノか!?

*3:この他にも長女、四女がタレ目。次女、三女がツリ目といった区別もされている