歴史を観じる

私は講談社現代新書が好きです。新書の中でも有数の俗っぽく機能的なデザインが大好きです。*1
今日はそんな新書の中から歴史について考えさせてくれる一冊を紹介。

若者殺しの時代 (講談社現代新書)

若者殺しの時代 (講談社現代新書)

これはいい本です。タイトルも刺激的ながら、内容はもっと刺激的。しかも著者の坂井さんがフランクに話し書いてくるような文体で書いているので、よりいっそう絶望を感じることができるでしょう。
はい、本題に入ります。私はこの本に「歴史」を観ました。そう、「歴史」。みなさんは歴史と聞くと何を思い浮かべるでしょうか。お上との妥協となあなあの日々がつむぎだす、エログロナンセンスな近世でしょうか。世界有数の首狩り先頭民族っぷりを発揮した中世でしょうか。いち早く死刑制度を廃止したけど私刑はバリバリあるよ、な古代でしょうか。はい、どれでもかまいませんが、どれも遠いです。
この本が取り上げるのは、同時代史。「なぜ我々がここに至ったか」に焦点を絞った、キワメテクリティカルにここ20年を述べた歴史書なのです。
この本は日本人は何者でどこからやってきたのかについては答えてくれません。しかし、我々がなぜ今苦しいのかには、少し答えてくれます。
この本は狩りと農耕の歴史について述べてくれません。しかし、我々がどうやってコンビニに群がるに至ったかについては、少し答えてくれます。
この本は王朝国家の女性と愛について答えてくれません。しかし、どうして援助交際やポルノが氾濫したかについては、少し答えてくれます。
この本は武家政権の誕生について答えてくれません。しかし、ディズニーランドの誕生とその違和感については、少し答えてくれます。
この本は元寇と神国思想の因果について答えてくれません。しかし、バブルと上昇志向の因果については、少し答えてくれます。
この本は祇園祭の発生と山鉾の展開について答えてくれません。しかし、クリスマスの普及と正月の衰退については、少し答えてくれます。
この本は浮世絵と近世文芸の盛衰について答えてくれません。しかし、漫画のここ50年の評価の盛衰については、少し答えてくれます。
この本は明治維新後〜日露戦争に至る近代化の歩みについて答えてくれません。しかし、戦後〜今に至る我々が失ったものについては、少し答えてくれます。
この本は陸軍の皇道派と統制派の二極分化について答えてくれません。しかし、タダでヤレる男と喪男の二極分化については、少し答えてくれます。

その程度の本です。そしてたかだか生まれて2×年の私が体感できる歴史も、この程度なのです。それを実感することなしに、我々を形づくるものを過去から把握しようとしても、片腹痛しなのです。飛躍するためにはコンビニに夜中に行き、携帯に見張られ、クリティカルな行為をヌルイ言葉に置き換えて誤魔化す我々自身の今の生態が「いつ」生まれ、「どうやって」育ち、「どこへ」行くのか、を自分なりに把握し、解釈しなければならないのです。これはそういう「歴史」書です。

*1:今のデザインはそんなに好きくありません