ニコニコ的特撮鑑賞法

最近、ニコニコ動画で流行っている特撮があります。

http://www.nicovideo.jp/watch/sm1520723
ひどい話です。一緒に輪投げ遊びをやってたと思ったら、だまし討ちで眼球を引きちぎり、両手を切断、オマケに首チョンパ。どこの残虐ショーでしょう。
この番組は「流星人間ゾーン」。1973年4月2日〜9月24日までの約六ヶ月間にわたって放送されていた番組です。この番組の地上波初放送の四日後、1973年4月6日に始まったのがご存知ウルトラマンタロウです。どちらも円谷プロの製作になります。
ここで示した鬼畜ぶりは特撮好きの私も驚愕モノですが、それはだまし討ちという行為に対してであって、首が吹っ飛んだり、目玉が飛び出たりは同時期の円谷特撮・ウルトラマンAでもヴァーチカルギロチンやギロチンショットなどのアレなネーミングの技をボコボコ繰り出してやっていることもあり、驚くことではありません。*1
私がここで注目したいのはニコニコ動画における特撮の受容のあり方です。流星人間ゾーンのほかにニコニコで定評のある特撮としては

http://www.nicovideo.jp/watch/sm1535962
レッドマンや、
http://www.nicovideo.jp/watch/sm559357

神男、
http://www.nicovideo.jp/watch/sm987411

グリーンマンがあります。
これら三部作は
レッドマン(1972.4.24〜10.3)
ゴッドマン(1972.10.5〜1973.9.28)
行け!グリーンマン(1973.11.12〜1974.9.27)

と、同時間帯に放送されていたスポット番組であり、第二次特撮ブーム*2の中心時代に位置する作品群となります。
で、レッドマンの前番組がご存知ウルトラファイトです。これら一連の作品群はウルトラファイトの系譜を受け継いでいます、その要素とは、
一 五分ほどのスポット番組
二 着ぐるみが使いまわし
三 ほぼ毎日やってるため、決着があとまわし
四 格闘主体でストーリーがあまりない
以上が挙げられます。ここで注目してほしいのが四の要素です。そう、これら番組群はストーリーがなく、怪獣とヒーローがどつきあっているシーンが延々と展開されるのです。しかもかなり単調。セットを作るお金も壊すお金もないので、戦う場所はいつもおきまりの丘(ゴッドヶ丘とも言う)とか、公園。
しかし、多くのニコニコ人たちはこれら滑稽味溢れる戦闘を面白がり、そこに字幕によって価値を付加し、面白がります。流星人間ゾーンの場合もしかりです。そう、ニコニコで受ける特撮はいずれも戦闘シーンであり、かつ、字幕によって面白さが増すプロレス的要素を含んだものになります。
特撮の地位向上を願う人間はよく、「ウルトラセブンはハードなSFだ」とか「レインボーマンオイルショックを予見していた」「宇宙刑事シリーズはダイオキシン問題を先取りしていた」等、特撮のメッセージ性を媒介として、そのよさを布教しよう試みます。決して「ウルトラセブンアイスラッガーで首と手足をスパッと切るから爽快」とか「レインボーマンは豚の鼻を装着した塩沢ときイカレたデンパ人間・大月ウルフと死闘を繰り広げるのが、タマラン」とか、「宇宙刑事シリーズは艦隊シーンが使いまわしなのが最高だ!毎回ドルギランの爪に自分から突っ込んで自爆するマクー戦闘機を見るとゾクゾクするわ!!」という勧めかた、プロレス要素を主とした面白さの主張は間違ってもしませんでした。
こういった論調には、いい年こいて特撮が好きな自分を理論武装し正当化しようというさもしい意図もあるでしょう。が、それ以上にヴィジュアルイメージを人に伝えるのに苦労したという点があります。まさか、知り合いを「特撮見ようよ」と呼びかけて家に連れて行くわけにもいきません。警戒されます。(私は平気でやりますが)しかし、ニコニコなら、そこらにあるパソコンで「オモロイ映像がある」と含み笑いしながら見せることが可能なのです。いい時代になったものです。が、しかし、先入観のない人々に受けるのは、これらの面白おかしいプロレス部分であって、特撮にこめられたメッセージ性なんかはこれっぽっちも考慮してくれないこともまた、覚えおく必要があります。
それでもいいのです。特撮誕生の原初の欲求である「人外の者どもの異種格闘戦」を少しでも多くの人々と共有できれば、私はそれでいいのです。いや、それが何より、です。

*1:実はゾーンの怪獣の多くがウルトラマンAの着ぐるみの使いまわし

*2:私の定義では「宇宙猿人ゴリ」(スペクトルマン)が始まった1971年1月からジャッカー電撃隊が終わった1977年12月までを指す。この定義に関しては論者によって異動がある