管仲ツンデレ説

こんにちわmantrapriです。
最近、こんなものにはまっています。

史記列伝1 (岩波文庫 青214-1)

史記列伝1 (岩波文庫 青214-1)

画像がない、なんたるっ、なんたるっ、炎多留っ!!
とまあ冗談は抜きにして、今回はこの本をより管仲を取り上げて語っていきたいと思います。
管仲(かんちゅう)は今を遡ること2650年ほど前の中国・春秋時代の政治家です。お釈迦様やクロイソスよりも100年前、ヘロドトス孔子よりも200年前、アレクサンドロスよりも300年前、ハンニバル韓非子よりも400年前、小スキピオ史記作者・司馬遷よりも500年前、カエサル朱蒙よりも600年前、イエス光武帝よりも700年前、帥升マルクス・アウレリウス・アントニヌスよりも800年前、卑弥呼やマニよりも900年前、コンスタンティヌス帝やボディダルマよりも1000年も前の人間です。遡りすぎっ!あ、安心してください。第一回オリンピックや西周の滅亡よりは100年後でした。
彼は斉*1という国の宰相として政治を行い、君主・桓公を春秋の覇者としました。管仲は斉を富ませるため、富国強兵・殖産興業を中心とした政策を展開。その政治手腕が後の世の範とされたことは「衣食足りて礼節を知る」や、「富国強兵」といった彼の遺した言葉が2650年後の現在にも通用することからもお分かりいただけると思います。
この栄達を極めた管仲ですが、彼は当初は桓公の命を狙う暗殺者でした。というのも彼は桓公の兄弟である公子糾を斉の王位に付ける為、活動していたからです。しかも、その暗殺は危うく成功するところでした。しかし、桓公は間一髪のところで危機を逃れ、公子糾を倒します。で、管仲は囚われの身となるのですが、この時の彼を救うように取り成したのが桓公の家臣・鮑叔牙(ほうしゅくが)です。
彼は管仲の幼馴染みであって、彼の才能を知っていたのです。彼の取り成しもあって管仲は命を救われ、斉の宰相となることができました。しかも鮑叔牙よりも出世した管仲に対して、友は恨みを口にすることもなく終生その仲は変らなかったとのことです。この故事から二人のようなお互いを理解しあった友情のことを「管鮑(かんぽう)の交わり」と言います。
ここまでならいい話ですね、ハイ。ですがまあ、ここで韓非子を引いてみましょうね。
韓非子 (第1冊) (岩波文庫)

韓非子 (第1冊) (岩波文庫)

これは戦国末の韓の公子である韓非が著した史上最強レベルのマキャベリズム*2の本なのですが、巧みな説話と比喩の多さによっても知られています。その中の「十過」(十の災い)篇には管仲の遺言が例として引かれています。

桓公「あなた(管仲)の後継は鮑叔牙で、どうだろうか?」
管仲「ダメです。鮑叔牙の人柄は強情で荒々しい事を好みます。強情ということは民を乱暴に扱い、その心を得られません。荒々しいと、下のものは仕事をしません。鮑叔牙は恐れ、慎むことを知りません。覇者(桓公)の補佐には適さないでしょう」

…ヒ、ヒドイ。命の恩人の親友に対して歯に衣着せぬどころか、罵倒に近い評価です。いや、まあ、友人に対しても目が曇ることなく、そのありのままを評価する。政治家としての冷静な目を管仲が持っていた。そういうことにしておきましょうか…。
でもね、もう一度史記に戻ってみますよ。そこでは管仲はこんなことを言っています。

私が貧困であったとき、鮑叔牙と一緒に商売をしたことがある。儲けを分けるときになって私が多く分け前を取った。でも彼は私を「貧しいやつ」とは言わなかったよ。彼は私が貧乏であることを知っていたからだ。
私はかって鮑叔牙の為に計画を立てて更に困窮したことがある。でも彼は私を「愚かだ」とは言わなかったよ。時節には有利、不利というものがあることを彼は知っていたからだ。
私はかつて三人の君主に仕えて、三人共に追われることとなった。でも彼は私を「賢くないやつ」とは言わなかったよ。私が不運だったと知っていたからだ。
私は三度の戦で、三回とも逃げたときも、彼は私を「卑怯だ」とは言わなかった。私に老母がいることを知っていたからだ。
公子糾が敗れ、死んだとき、私は(自害せずに)虜囚の辱めに甘んじた。彼は私を「恥知らず」とは言わなかった。彼は私が小さな節義よりも、己の功名が天下に顕れないことを恥とする男だと分かっていたから。

ハイ。この発言を見ると分け前を減らされたり、失敗した計画に巻き込まれたりしながらも文句一つ言わなかった鮑叔牙の姿が浮き彫りになりますね。「強情で荒々し」かったり、「恐れ、慎むことを知らな」いようには少なくとも、見えませんね。ええ、管仲よりは。少なくとも自尊心の強そうな管仲を敬い、態度にすら不信、不快を表さなかったであろう鮑叔牙の姿が私には見えます。というかていうか管仲どんだけジャイアニズムやねん。
でもね、この文の終わりに管仲、こう言ってます。

私を生んだのは父母である。でもね。私のことを分かっている*3のは鮑叔牙なんだ。

なんたるツンデレ*4ご馳走様でした。

*1:中国山東半島に位置する国。周の軍師・太公望呂尚が創建。

*2:マキャベリの「君主論」が生ぬるく感じるほど、人間不信・君主権の強化・法治主義に基づいている

*3:ここは原文では「知我者鮑子也」となっています。「知」という言葉のみではニュアンスが薄いとお思いでしょうが、史記「刺客列伝」に引かれる予譲の「士は己を知る者の為に死す」という言葉が示すように、古代中国の男同士の交わりにおいては最上級の表現

*4:「フ、フン。別に公子糾と一緒に自害したってよかったんだからっ!誤解しないでよねっ!、死ぬのなんてこれっぽっちも怖くないんだからっ!!まあ、アンタがどうしても小白(桓公)に仕えろって言うんだったら、仕えてあげたっていいんだけど。まあ、今までだってアタシが悪いんじゃなくて君主が悪かったのよ、私が本気を出したらそれこそ春秋の五覇になったり、会盟牛耳ったり、周王室を盛り立てたりで大変なんだから。ねえ、聞いてるの?誰だって良いわけじゃないのよ、アンタの頼みだからゴニョゴニョ・・・とっ、とにかく!アタシが仕官するからには当然アンタが下でアタシが上!!いいわねっ!」という幻聴が聞こえてきました