祝兄機械 〜ヒャッコに見る水平型マンガ〜

三巻発売、およびアニメ化オメデトウございます。

ヒャッコ 3 (Flex Comix)

ヒャッコ 3 (Flex Comix)

ということでヒャッコ三巻です。いよいよヒャッコ中での季節も夏。物語も大きく展開を見せるのか?そう、カトウハルアキさんがどのように「展開」していくのか。非常に気になります。
というのも、ヒャッコも、夕日ロマンスも基本的に水平進行のマンガなんですね。これまでのところ。
ココで私は水平と垂直という二つの軸を使って語っていきたいと思います。まず概念の整理。
水平…横軸。新しい登場人物や環境など、周囲の状況を追加していくことで物語を展開していく。
垂直…縦軸。主人公の経験や喪失など、処々の「蓄積」をもとに物語を展開していく。
ヒャッコは、基本新たなクラスメートの登場によって話を展開していきます。つまり水平型のマンガということになります。また、クラスメートのみではなく、イベントや行事におけるリアクションで話を展開するのも、水平型に入ります。
で、垂直型。これは少年漫画におなじみ「インフレ」と密接に関わってきます。すなわち、主人公の経験を積み重ねることで話を展開していきます。例えばAという敵と戦って勝つ。これで終わるのならば「水平型」です。しかしAを倒したことで、Aの兄弟であるBが現れる。しかもAより強い。こうなってくると、Aの登場、打倒によってBがはじめて登場すると言えるわけで、いわゆる「因果」が存在することになります。
ヒャッコでも兄や姉がでてるじゃないか!あれは「因果」だろ?」という声があるやもしれません。あの場合、あらかじめ虎子に兄や姉がいたわけで、作中の行動によって登場が約束されたわけでは必ずしもありません。あくまで作中に展開することをここでは「因果」と呼びます。
この「因果」が積み重なっていくことが、少年漫画もといバトル漫画の王道です。*1すなわち「垂直型」は少年漫画にある程度欠かせない要素なのです。
一方「水平型」が極端なものにはギャグマンガや、サザエさん、ゴルゴ13などの長期連載マンガが挙げられます。この世界では一話ごとの情報、登場キャラはほぼ記憶されず、リセットに近い形になります。毎回登場人物や状況が変化し、かつそれらが蓄積しない。だからキャラクターが年をとらない。「垂直」は「時間軸」と言い換えてもいいでしょう。
そうい意味で、あずまんが大王の新しかったところは「水平型」に極めて近い世界を展開しているように表面上は見せつつ、確実に時間の経過を描いていたところです。これらの二要素のいずれかではなく、たいていのマンガは両方の要素を含んでいます。その比重が違うだけです。
ヒャッコにおいても春から夏へ、垂直を意識させる流れにはなっていますし、キャラも増えています。ですが、積み木を積むような「出来事」や「因果」の蓄積があまりなされていません。これから虎子と仲間たちが、作中で何を語り、何を思い、何を残すのか。そういった「積み重ね」「垂直」への意志はまだまだ未知数なのです。
カトウハルアキさんが「垂直」を志向したとき、どのような世界を見せてくれるのか?非常に楽しみであります。


追伸:今回もすずめはかわいいなぁ。20コメの「雀よ、されば与えられん」のウェブ掲載時のカラー表紙なんて絶品でしたよ、アンタ。

*1:そういう意味で男塾は、敵がピラミッド型になっていないし、キャラの増減以外に蓄積も意識させない不思議なバトルマンガ