強敵(トモ)とはアイテムである 〜物語における「仲間」とは〜

さて、前回金剛番長の書評をしたときに述べた命題、

「何故、強敵(トモ)はテリーマン化するのか?」

について考えていきたいと思います。
アイドル番長揃い踏み - マントラプリの生涯原液35度
今回使用するテキストはこちら、

この本は「多重人格探偵サイコ」でお馴染み、大塚英志によって書かれた「キャラクター」創造の手引き書です。大変実用的な内容となっているので興味のある諸兄は手にとってみられるとよろしいかと。
この本の中で、大塚は物語を動かすキャラクターの役割を七つに分けています。これはロシアの民俗学者・ウラジミール・プロップの民話のバリエーション分類からの引用なのですが、下記のような区分となります。

1敵対者
2贈与者
3助手
4王女とその父
5派遣者
6主人公
7ニセ主人公

この中で、いわゆる友人や仲間の多くは3助手に当たります。この助手に与えられた役割は「主人公の空間移動・不幸あるいは欠如の解消・追跡からの救出・難題の解決・主人公の変身をふくむ」とされています。
ここで注目していただきたいのは、
助手の役割が必ずしも固有の人格を有しているわけではない
という点です。「空間移動」はドラゴンボールで言えば金斗雲や瞬間移動ですし、「主人公の変身」は大猿化、スーパーサイヤ人フュージョンです。これらは孫悟空というキャラクター自体の性質として語られ、彼の固有性とされています。しかし、助手のカテゴリーには仲間の人間や動物以外に、本人の「性質」や「アイテム」もカウントされるのです。
ということは、逆もまたしかり、
固有の人格を持っていると思われる「仲間」は物語の役割から言えば「アイテム」と同じ用途、効果をもつ
ということです。これについて、大塚はスターウォーズのルークとハン・ソロの関係を例に出して説明しています。

ハン・ソロたちは離反したり敵に捕まったりはするものの、ルークと「一緒」です。それは当然で、彼らはライトサーベルと同様、ルークの「持ちもの」=アイテムだからです。
                           キャラクターメーカーP209

ハン・ソロはルークと意見を戦わせたり、別行動をとったりはするものの、基本的にはルークの道筋を助け、対立者になることはありません。これはある意味「都合がいい」存在なのです。一方、ヨーダやオビワンは主人公のパーティには加わらず、一定の距離を保ち助言を与える2贈与者レイア姫は主人公の功績を承認し、動機を与える4王女とその父。ダースベイダーは1敵対者であったり、暗黒面という主人公のフォースと鏡写しの人生を送った点では2ニセ主人公であったりする、複合的な存在です。
ハン・ソロ=助手の本編での役割は主人公の補助の領域を出ることはなく、固有の人格を持つにしろ、ストーリー展開上の役割は主人公の付属物=アイテムなのです。
で、ここからが前回との関連。最初「強敵」としてあらわれ、後に「仲間」になる「強敵(トモ)」は1敵対者→3助手への移行したことになります。その段階で彼等は主人公の付属物、つまりはアイテムに成り下がってしまい、主人公を補佐する側面しか与えられなくなってしまいます。
テリーマンに関して言えば、
日本文化を愛するキン肉マンに対する西欧合理主義者(1敵対者)として登場(一巻)→キン肉マンに超人オリンピック開催の知らせを告げに来る(5派遣者)(三巻)→アイドル超人の一員としてキン肉マンと共闘する(3助手)(十〜十七巻)→超人タッグトーナメントで袂を別つが、助言は続けたり(2贈与者)、キン肉マングレートになったり(3助手)もする(十七〜二十三巻)→そして王位争奪戦で完全な助手になるわけです(二十四〜三十九巻)
かように複雑な変遷をたどるテリーマンなので、読者から「弱体化した」だの「ロビンマスクの下位互換」だの言われながら、魅力的なキャラクターを保っていくことが出来ました。なので、弱体化現象を「テリーマン化」と言いながら、その実、キャラクターの魅力に関して、テリーマンにはテリーマン化現象があまり当てはまらないのですね、ハイ。例えが適切でなくてスミマセン。
「強敵(トモ)がテリーマン化」する最大の原因。それは1敵対者→3助手へと役割を移行したキャラクターがその後役割を変化させられない点にあります。
少年漫画の常として長期連載があります。そう、長期連載の最大のポイント、それは次々と強敵(トモ)がアップデートされることです。つまり1敵対者→3助手の移行をたどるキャラクターの増加と、それによる過去の移行者のリストラです。ここにこそ「テリーマン化」という病理の本質があります。アイテムなんか、後の町やダンジョンに行けば強力なものがどんどん手に入るでしょう?そうなると古いアイテムは売り払われる。そういうことです。
ヤムチャ天津飯という1敵対者における上位互換、ベジータという敵対者、およびヒロインとの恋愛における上位互換のダブルパンチによって、阿散井恋次はグリムジョー・ジャガージャックという1→3の移行をたどりそうな上*1に、ややキャラが被るという上位互換によって「テリーマン化」してしまいます。
こういった道をたどらないようにするためには仲間キャラクターの役割を助手のみに留めることなく、フレキシブルに変化させていくことです。「俺はテメエ(主人公)の操り人形(アイテム)じゃねえ!」と叫ばせることです。助手から、
1敵対者にしてみたり(洗脳)(自発的)(殺意の波動に目覚める)うんぬん。
2贈与者にしてみたり(出世)(主人公と別行動)(アイテム開発)
4王女とその父にしてみたり(さらわれる)(実はアテナだった)(実は社長だった)(生き別れの父母だった)
5派遣者にしてみたり(全国大会に招待したり)(青年監督就任)(海馬コーポレーション主催のデュエル大会を開いたり)
6主人公にしてみたり(のっとり)(単純にそのキャラの主役回)(仲間が主役の章)
7ニセ主人公にしてみたり(ライヴァル)(主人公の名前を使って色々)
いろいろ道はあるはずです。ついつい単純に1敵対者を選んでしまいがちですが、アイテムの立場を脱却する努力は無限にあります。「キャラクターの役割を動かすこと」こそがストーリーを、ひいては物語を魅力的に動かすことへと繋がるのです。
ますますインフレ化、多巻化する少年誌。上記の方法を使用し、一人でも多くの「テリーマン」が救われ、「強敵(トモ)」としての矜持を回復してくれることを望みます。

*1:1のまま死ぬというのはノイトラがやってしまったので、似た属性にあるグリムジョーはこの道はたどりづらいと思われる