目は口ほどに、なんとやら〜放課後ウインド・オーケストラ〜

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この作品は無気力主人公・平音佳敏(へいおんよしとし)が吹奏楽少女・藤本鈴奈(ふじもとりな)に会い、彼女と協力して吹奏楽部を再建していくことで「変わっていく」物語です。
で、この作品の何に一番惹かれたかというと「眼」なんですよね。

ごらんのように白目を基調とした眼をしております。眼球の角膜部分が黒い縁取りで、その中心である前房のひときわ黒い部分(瞳孔)が、実際の場合とは逆に白一色で表現されているのです。羽海野チカがよく使う

も、広義にはこの部類に入ると私は考えています。*1では上記の図に従ってその特徴を考えてみましょう。
よろこび、いかり、かなしみ、とまどいの部分ですが、ここではそれぞれの感情の起伏に併せて瞳孔の白い部分が拡大、縮小、太くなったり、細くなったりしているのが見て取れます。作者の宇佐さんがどれほど意識しているのかは今の時点では分かりませんが、少なくとも白目の大きさによって感情の振幅が表現されるということはいえると思います。
同じことを黒目でやってしまうと、キャラクターの性格自体が変化したかのような極端な変化になってしまうのです。

周りを黒一色で固めた中の白い部分が変化するという「放課後ウインド・オーケストラ」の方法は黒い部分だと生じやすい違和感を巧みに中和することに成功しています。これには白い部分を瞳孔ではなく、「ハイライト」と誤認してしまう、いやわざとさせる効果も含まれていると思われます。そこらへんの「白のあいまいさ」を巧みに生かした眼球表現ではないでしょうか。
普段の絵ではこの黒い部分にヌキの形で白眼が入るのですが、ちょっとした大きなコマや、キャラクターの感情に変化が生じるシーンでは「よろこび」の部分にみられるような光が入ってきます。そして、その変化をさらに推し進めたのが「ヒロイン補正」です。
「ヒロイン補正」とは本作品のヒロイン・藤本鈴奈の眼にのみ特徴的に現れる変化を書き出したものです。大ゴマで彼女の感情があらわになるとき、上記の1〜4のように、白目を含めた眼球の描かれ方に変化が生じます。この際には、黒い部分に微妙な線が入ったり、他のキャラの目には使われないグラデーショントーンが使用されたりします。まあ、鈴奈がズームになる回数が多いので必然的にそういう表現になる。という考え方も出来ますが、その一方で平音くんやライバル(?)の海澄なんかの男陣がズームになる場合はトーンも光もほとんど使用されない。また、今後台頭してくると思われるオトナしキャラの桜井さんや、やかましやの長谷部さんら女性陣がズームになるときは、目の光は増量されるのですが、トーン使用までには至らない。ここらへんの「差別化」は作者が意図して行っていると考えていいと思います。
つまり、ズームやキメゴマの際、
男キャラ…虹彩部分に変化無し
女キャラ…虹彩部分に光が増える
鈴奈…虹彩部分に光が増える。トーンが入る。
という序列が存在するのではないでしょうか。作画上のヒロイン補正によっても鈴奈のキャラとしての地位は保証されているといえましょう。
かように『放課後ウインド・オーケストラ』の「白目」はキャラの表情を魅力的にするのみならず、キャラクターの序列化をも同時になしえているのです。まさに「目は口ほどにものを言う」作品と言えましょう。
あ、本編自体の魅力を語るスペースが無い…。それはまた、今度と言うことで。

*1:私の知る限りではサムライスピリッツの四コマの人(知ってる人、名前教えて)が最初にメインで使いはじめた技法のような気がする。羽海野チカの場合は眼球丸ごと一個を表しているような印象も受けるが、サムスピの人の絵は白目と上まぶたが並行して描かれているので、眼球ではなく虹彩部分のみを描いているとわかる。というか、実は眼球丸ごとと考えると、白目部分が黒。虹彩部分が白となり、聖闘士星矢ジェミニのサガのような凶悪なツラになってしまうのであった