構成の妙
ようやくヘロドトスの『歴史』、読了。
語りたいことがいっぱいあるから、あえて語りません。ただ、その構成の美しさのみを記します。
- 作者: 松平千秋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1971/12/16
- メディア: 文庫
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1.クレイオ*1:リュディア、メディア、バビロンという国々とその王の偉業を描き、それがペルシアと大キュロスに蹂躙されていくさまを描く。そして最後にはキュロス自身が蹂躙されるさまを記す。
2.エウテルペ*2:エジプトの風俗と偉大なる国王を描き、それがキュロスの子カンビュセスに蹂躙されるさまを描く。
3.タレイア*3:カンビュセスが狂乱の中で死に、ダレイオスに王位が移るさまを描く。と同時に偉大なるペルシアの支配とその幕僚たちを描く。
- 作者: ヘロドトス,松平千秋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1972/01/17
- メディア: 文庫
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5.テルプレシコ*5:イオニアにおけるギリシアの反抗とその敗北を描く。
6.エラト*6:マラトンの戦いと、ペルシア戦争の前哨戦を描く。
- 作者: ヘロドトス,松平千秋
- 出版社/メーカー: 岩波書店
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7.ポリュムニア*7:ダレイオスの死によるクセルクセスの即位。および偉大なる幕僚たちの子孫の姿を描く。そして彼らのヨーロッパ遠征を記す。
8.ウラニア*8:テルモピュレーおよびサラミスの戦いと、クセルクセスの帰還。ペルシアの敗色を描く。
9.カリオペ*9:偉大なるペルシアの幕僚たちが蹂躙され、果てるさまを描く。
このような構成になります。各章にはムーサ(文芸の女神)の名が添えられている。美しい。
まずは
上巻アジア。中巻アナトリア半島(イオニア)→ヨーロッパ。下巻ヨーロッパ→アナトリア半島(イオニア)
とメインとなる舞台のほぼ一本線で描ける。これはそのまま
上巻ペルシア→中巻スキタイ・アナトリア半島(イオニア)の殖民都市→下巻ヨーロッパの諸国家
と、メインとして描かれる国家の変遷とも連なります。
と、同時に『歴史』の大枠はペルシア帝国の衰亡史です。ヘロドトスの著述の中心はギリシア諸国よりもアケメネス朝ペルシアに置かれている気がしてなりません。上巻ではキュロスにより帝国の日の出を描き、中巻ではダレイオスによる全盛を、そして下巻でクセルクセスと幕僚たちの敗北による落日を描きます。といってもこの後更にペルシア帝国は続くんだけども。あくまでアナトリア半島のイオニア諸国(作者・ヘロドトスはイオニアのハルカリナソスの出身)を中心とした史観として、です。
ペルシア帝国のオリエント(日の出)から、オチデント(日の入り)の過程を、地理もオリエント(アジア)からオチデント(ヨーロッパ)へと移動して描いて見せます。
興亡、攻防、東西、帝国と民主。あらゆるものの対比と推移が色鮮やかに、一定の法則を以って流れゆく。凄まじい構成の妙だと思います。日本では『平家物語』が東(京都)→西(下関)の移動。政権(伊勢平氏)の盛衰を描いた点で共通しており*10、地球の反対側の国における東(日の出)、西(日の入り)の象徴の符号を感じさせます。
大キュロスに始まり、大キュロスで終わる偉大なるロードムービー『歴史』。みなさんも是非堪能してください。*11
-『歴史』ランキング
なんとなくページがあまったので(ページなんかないじゃんか)、キャラクターランキングを勝手にぶちまけることにしました。
<英雄>
一位・大キュロス…なんだかんだいって、『歴史』の代表人物。その好かれっぷりはペルシア本国のみならず、ギリシア諸国、ユダヤ・キリスト教圏と万国に及んでいる。
二位・ダレイオス…中巻ではイオニア人にひたすらカモにされますが、上巻の王位奪還への動きは見事。
三位・レオニダス…『300』でお馴染みスパルタ王。ギリシア側で唯一といっていいほど「汚点」を記述されない人。それだけで英雄。寛恕の精神でお馴染みのペルシア王を怒らせた点でも見事。
<女傑>
一位・トミュリス…大キュロスを屠ったマッサゲタイ人の女王。残酷さ、強靭さ、美しさ共に言うことなし。
二位・アルテミシア…ハルカリナソスの女王。ペルシア戦争中のペルシア幕僚内の良心。同国人ヘロドトスの肩入れも並々ならない。
三位・ゴルゴ…『300』でお馴染みレオニダスの妻。スパルタ王クレオメネスの一人娘。いぶし銀的な聡明さ。
(アッシリア女王・セミラミスは同時代人ではないのであえて省きました)
<悲劇の人>
一位・クロイソス…リュディア王。神託には裏切られるわ、息子は死ぬわ、生き延びたことによって大キュロスは殺すわ、カンビュセスにネチネチ恨まれるわ、全てが裏目に出る。とかく悲惨。
二位・アルタユクテス…ペルシア幕僚。なぜか『歴史』のシメを担当することになる。息子を目の前で殺された上、磔。ペルシア軍の悲劇の末尾を飾る点でも、悲惨。
三位・カンビュセスに関わった人々…不特定多数。歩く狂人である彼に関わったら、皮をはがれて人間椅子にされたり、藤子F不二雄の短編「カンビュセスの籤」のような人肉食いを体験させられたり、いろいろ。忠義を尽くしてもクロイソスのようにネチネチいじめられたり、プレクサスペスのように飛び降り自殺をする羽目になる。甲斐なし。
<元凶>
一位・アステュアゲス…メディア王。彼の家臣・ハルパゴスへの暴挙が、ペルシア帝国の創建へと繋がる。詳しくは岩明均の『ヒストリエ』参照。
二位・ヒスティアイオス…ミレトスの人。スキタイ遠征における功績によってダレイオスの寵愛を得る。が、それをいいことにアリスタゴラスと組んでイオニアで散々やんちゃを繰り広げ、ペルシア戦争のきっかけを作る。
三位・マルドニオス…ペルシア幕僚。クセルクセスを誘い、ペルシア戦争の戦端を開く。アテナイ人テミストクレスと並んで『歴史』後半の中心人物。