とかくこの世は

理性だけでは、長生きできぬ。
悟性だけでは、生きたことにならぬ。
とかくこの世は、生きづらい。
時の驢馬に揺られ、世を眺めありくうち、鞍に尻が食い込み、鐙に指がのめる。人馬一体のケンタウルスになった心地ぞ、しぬる。
何者でもない、生き物になってしまった。
御話の世界には、帰れない。
俺が御話になってしまった。
これより、幾年重ねども、俺の口から出る話は、俺以外ではありえなくなってしまった。
もはや逃げ場はない。腹を八重にくくり、有意の奥山とぼとぼ歩け。仕合わせは歩いてこない。それは只、自分の擦りきれた足を見て、にやにやと笑うときだけのものだ。
然(さ)らば驢馬よ、俺の相棒。御前はこれから「刻」ではない。俺の相棒だ。
然(さ)らば驢馬よ、俺の相棒。御前はこれから「川」ではない。
我が鞭のままに動け半身。
己の時らしく、己に従え。
おれはおまえさ。
おまえはおれさ。
ときは、おれさ。
おれは、ときさ。
だからおれはいつかまで生きるのさ。
だからおれはいつかにか死ぬのさ。
ハッハァ。