蟻おりはべり

ある日、蟻を、見てました。
とてもちいさな蟻でした。
蟻より小さい蟻でした。

蟻を摘まんで手に乗せて、
掌の臺(しょうのうてな)の小ホール、
小粋な踊りをさせました。

たらたらたららと踊る蟻。
胡麻よりちいさきその頭。
砂よりちいさきその瞳。
つらつらつらと津々浦々、
蟻頭蟻尾(ぎとうぎび)の八十四州、
へめぐりこもくりするうちに、

何時しか手の先指の先、
遥か彼方の蟻の角、
その突端の宗谷の岬

ひとり佇む芥子の我。
そこでも蟻を、見てました。
やっぱり小さな、蟻でした。