新たなジャンプ主義の旗手・めだかボックス

めだかボックス。最新巻が発売されました!

めだかボックス 6 (ジャンプコミックス)

めだかボックス 6 (ジャンプコミックス)

このマンガについては、以前友人のモルヒネくんとその特徴について話したことがありました。今回はその内容を踏まえて、この作品の「バトルの面白さ」について述べたいと思います。
めだかボックス」は箱庭学園という学校を舞台にしたバトルマンガです。学園という利点を活かして、このマンガでは「能力」の差をクラスの違いで表しています。
1組から9組が普通(ノーマル)、11組が特別(スペシャル)、13組が異常(アブノーマル)と呼ばれ、それぞれの能力もクラスごとに大きく異なります。いわばクラスごとに技能や特質によるクラスター(群、集団)が設けられているのです。しゃれじゃないぞ!
一般的なバトルマンガでは、このクラスターは段階を追って、順番に提示されていきます。同じジャンプマンガを例に挙げるとキン肉マンでは、
超人オリンピック→七人の悪魔超人編→黄金のマスク編→超人タッグトーナメント編→キン肉星王位争奪戦
と物語が進んでいきます。それにつれて敵も
世界の超人(超人オリンピック)→悪魔超人(七人の悪魔超人)→悪魔六騎士(黄金のマスク)→パーフェクト超人(超人タッグトーナメント)→邪悪の神々(キン肉星王位争奪戦)
と、移り変わっていくのがわかります。悪魔超人やパーフェクト超人など敵が所属するクラスターが、「章」ごとに、「切り替わって登場」するのが、ジャンプ、および少年マンガのセオリーなのです。ここらへんはさかのぼると仮面ライダーの大幹部制や、月光仮面にまで行き着く興味深い問題なのですが、その話はまたにしましょう。
めだかボックスの個性は、この「クラスター」が切り替わらず、継続していく点にあります。現行六巻までの流れでは1巻が普通の生徒の悩みを解決する普通編。1巻の途中から2巻までが11組の生徒との関わりが中心となるスペシャル編。で、3巻の雲仙戦からフラスコ計画打倒のおそらく7巻ぐらいまでが異常(アブノーマル)な13組との戦いであるアブノーマル編となるわけです。
前述のキン肉マンと同じように敵のクラスターは入れ替わっています。しかし入れ替わったクラスターはお払い箱にはなりません。なぜなら、主人公チームである生徒会メンバー。このメンバーの所属クラスはそれぞれ分かれており、したがって主要登場人物の所属するクラスターがそれぞれ別になるからです。
主人公のめだかが13組でアブノーマル(?)。阿久根と鬼界ケ島が11組でスペシャル。相棒の人吉善吉はノーマルと、クラスを「越境」する生徒会の性質を活かして、生徒会メンバーはあらゆるクラスの、あらゆるクラスターで構成されてます。これによって戦う相手のクラスターは変わろうが、主人公チームのクラスターが複合的である限り、過去のクラスターは切り捨てられないという効果を生みます。
ジャンプセオリーには利点もありますが、同時に欠点も存在します。一つの章が終わるたびに、過去のクラスターに属していたものたちが色あせていくことです。その章では最強だったボスや強敵たちが次の章では「あいつは我らの中でも最弱」だの、「戸愚呂はB級妖怪」だの言われるさま。いくらインフレがジャンプの宿命とは言え、過去の敵の貶められ方に憤りを感じた方も数知れないと思います。しかし、めだかボックスクラスターを継続させることで、このような理不尽を回避しているのです。
その特徴的なエピソードとして3巻の鍋島猫美対雲仙姉戦が挙げられるでしょう。新たに現れた敵集団(アブノーマル)と恐るべきフラスコ計画。その最初の刺客が雲仙冥加です。彼女は数字言語のみで会話をし、常人とは没交渉の恐るべきアブノーマルです。この新たなクラスターの新たなバトルにはこれまでのクラスターでは立ち向かえないのか!と思いきや、あっさり生徒会メンバーでも、アブノーマルでもない鍋島の反則技に敗退してしまいます。
これは新しいクラスター≠強者というめだかボックスのシステムを象徴するエピソードです。ジョジョ第六部でディオが奇しくも言った「最強のスタンドは存在しない」、「スタンドの強さは対戦相手との相性で決まる」という思想を、個人レベルではなく、クラスターに適応しているのが、めだかボックスの斬新なポイントになります。(個人レベルの相性のちがいによるバトルの変化については、ジョジョハンターハンターテニプリなどですでに実践されている理論)この理論を実践するかのように、今回の6巻でも(最強)の黒神めだかは、非戦闘要員の黒神くじらにあっさりと敗れることになります。しかもそれ以前にくじらが敗北宣言をしているにもかかわら、ず。
クラスターと相性を巧みにマッチングさせ、過去のキャラクターを「過去の章だから」、「過去のクラスターに属するから」という理由だけで葬らせない、弱体化させない。「めだかボックス」はジャンプのインフレを別の理念で上書きする、新たなジャンプ主義への旗手と言えるマンガなのではないでしょうか。