地獄甲子夜話 −『十三人の刺客』−

十三人の刺客』を見てきました。
本作は、1963年に作られた片岡千恵蔵主演作のリメイクです。1963年版は、チャンバラ映画には珍しいロジスティックな戦略と、西村晃*1の無様な死にざまが私的に大好きな一本でした。
この時の十三人は今から考えると(当時もだけど)豪華メンバーです。多羅尾判内*2鞍馬天狗、魔風雷丸*3白馬童子、ダブル黄門*4まで含む、最強に近い猛者どもを取りそろえているのですから。敵方も仇である松平斉韶(まつだいらなりつぐ)役に、あの菅貫太郎(すがかんたろう)を迎えています。え?ご存じない。この人ですよ。

        画像も貼らずにスレ立てとな!?



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        ト、ニ| <でiンヽ  ;'i"ィでiン |三.|  
        ', iヽ!  、 ‐' /  !、 ーシ |シ,イ
         i,ヽリ    ,' :  !.     |f ノ
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上のAAの元ネタになっている『水戸黄門』の一条三位や、『仮面ライダーBLACK』のシャドームーンのパパ(秋月教授)などを演じている方です・私や2ちゃん的に考えて豪華なキャストですね。
そんなこんなもあって、私は心配だったのです
「はたして、リメイク版『十三人の刺客』は私を満足させてくれるだろうか」と。
しかし、その心配は杞憂でした。三池崇史監督は大枠の構造を生かしながら、新たなエンターテイメントを追加した『十三人の刺客』を生み出したのですから。
そのエンターテイメントの名は「グロ」
重厚な時代劇の顔や、集団活劇の顔の裏側に、素晴らしいグロテスクがちりばめてあります。

  • 曰く、放尿シーンで登場する怨敵。
  • 曰く、痛そうに、痛そうに、丹念に何度も描かれる切腹
  • 曰く、「みいけたかしかんとくのかんがえたかっこいいしょけいほう」が満載。
  • 曰く、登場する女は奇形人間か、白塗りの亡霊か、野人。
  • 曰く、犬食い。
  • 曰く、ゾンビ映画程度の質感しか持たず屠殺されていく300人の敵たち。
  • 曰く、水たまりだと思ったら、血だまりだった。
  • 曰く、ヒーローの死にざまにハエがたかる。

…時代劇でここまで良質なスプラッタームービーが見れるとは、思わなかったよ。最高だ。
その血しぶきの果てにたどりつく彼岸の境地。死屍累々となる宿場。リアリズムや凄惨さをはるかに超えた、一歩違えばギャグになってしまう「グロ」の反乱、いや氾濫が、役所広司松方弘樹市村正親といった豪華キャストの重厚な演技のおかげで、巧みに止揚されています。でもグロです。
その凄惨さは漫☆画太郎先生の『地獄甲子園』に通ずるものがあります。

地獄甲子園 1 (ジャンプコミックス)

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あそこで展開される殺人野球。球場に散らばる串刺しにされた生首。打ち出される「みんな死んでいた」のテロップ。
画太郎先生の場合はギャグで描いているため、そこに凄惨さはなく、ただただおかしいのです。しかし三池監督は、豪華キャストで、予算をかけて、重厚な時代劇の風貌で「みんな死んでいた」をやってしまった。
そのえも言われぬ光景は悪趣味でありながら、ギャグではない。かといって正気の世界でもない。狂気というには、理性的に語り過ぎている。この宙ぶらりんな感じが、全然悪くないのです。むしろ心地よさすら感じます。
この『十三人の刺客』。『甲子夜話』という、江戸時代に松浦静山(まつらせいざん)によって書かれた随筆の一エピソードを元にしているそうです。それならば、地獄甲子園的な凄惨さを、本格時代劇の重厚さを伴ってスクリーンに現出せしめた本作は、さながら『地獄甲子夜話(じごくかっしやわ)とでも呼べる代物なのではないでしょうか。
このスプラッター時代劇、必見です。

*1:俳優。二代目水戸黄門。父親は本邦初のロボ・学天則の発明者

*2:七つの顔を持つ男

*3:仮面の忍者赤影のラスボス

*4:二代目と五代目