英国人は錬金術師

英国人は錬金術師だと思う。
「飲料」の錬金術師だと思う。
英国の産物である紅茶やウィスキー。
これらの飲料は、その身そのままでは完成されない。
紅茶ならば、茶葉の生育する高度、砕き方、配合の比率、によってさまざまに変わる。
ウィスキーならば、蒸留するポットスチルの形、回数、ブレンドの仕方、によって様々に変わる。
いずれも不完全。その身そのままではなく手を加える必要がある。
それこそが錬金術たるゆえんだ。
いいかえればカスタマイズされるべく存在するのが英国の飲料。
作り手のカスタマイズを経てパッケージングされるが、その余風は残っており、われわれ自身の手での改良も可能とする。
紅茶ならば、ストレート、ミルク、レモン、ロシアン、チャイ、ホット、アイス。
ウィスキーならば、ストレート、ロック、水割り、ハイボール、ホット。
多くの選択肢の中、いつの間にか正解はなくなり、多様な飲み方を可能としている。
「食べ物をおもちゃにしてはいけない」と教わった我々が、合法的におもちゃにできる、それが英国の飲料。
英国が数千年のちにその余風を伝えうるとすれば、それは大英帝国の栄光でも、産業革命でも、ビートルズでもなく、
飲み物を大人のおもちゃにしうる錬金術を以ってである、と思う。