霧隠す里の歌

白くたなびく雲の御子。
天かけ地に下り山を這う。
汝の名は霧。

空の御子・雲。雲のそのまた御子たる霧。
汝は人けらにも親しく睦び、語りかける。
その声は地を覆い、彼と我をぞま白につつむ。

誰彼(たそがれ)なき、朝の黄昏。姿なき逢瀬。
幽冥の境をとりちらかし、日月の支配をまぎらかす。
それも
ただ
ひととき

瞬きの朱が、天地をわかつ。
漸(ようよ)うと天は蒼を戻し、粛々と地の白は消ゆ。
天地は宇宙の青を取り戻し、白き常世の世界は拡ぎ散る。


地は彩(いろ)を取り戻し、彼と我もまた分明す。
汝は人けらへの語りを止め。さわさわと砕ける。
霧の親・雲。雲の親たる空の呼び声。

汝の名は霧。
汝が天に戻るころ。
人間どもの朝が来る。