2011-08-13

20:46
ガンダムの作劇上のすばらしい点として、物語のドラマツルギーの中心を担う役を主人公から巧みに逸らしている点があると思う。

20:48
これはエヴァの主人公配置よりも実はかなり先鋭的である。エヴァは主人公のシンジや彼の家族を中心にエヴァや世界の秘密が織り込まれているが、アムロには彼がそこに、その戦況にいる必然性が実は最後までない。

20:49
で、主人公に変わってドラマツルギーの中心、すなわち作品世界内での存在の必然性を持つのが、シャアやセイラなのである。

20:52
なのでガンダム世界のライバルは主人公に執拗に繰り返す。「きさまがそこにいるのは状況にすぎない」と。なぜなら物語の、世界の、人脈の、葛藤の中心にいるのはシャアやシロッコハマーンやクロノクルなのである。ガンダムの「世界」とは主人公ではなくライバルのために用意されているものなのだ。

20:53
だからシロッコやクロノクルが「あれ、オレ中心の物語のはずなのに、なんでおれが死ななあかんの?」みたいなセリフを吐きながら死んでいく、その気持ちだけはよく分かる。

20:56
トミノは「主人公を主人公たらしめる必然」を誰よりも憎んでいる作家なのではないか、とすら思える。そして主人公には物語の「過程による業」は背負わせるが、「物語以前からの因縁」や「宿命」とでもいうべきものは極力排除しようとする。

20:59
私の中でガンダムの定義はこの「主人公が宿命のかやの外」という点で、Gガンダムなんかは大好きなガンダムだけど、この点が違うので、やっぱりガンダムではないな、とも思う。

21:03
そう考えると逆シャアガンダムではなくなってしまうんだが、な。じつはややそう思ってる。

21:09
じゃあ、黒歴史はどうなんだよ、と。あくまでロラン自身はディアナやギンガナム、アグリッパなどの支配層や、地球と月、二つの宿命の中間にいることで外野だ、と。

21:14
ガンダムの主人公に要求されるのは作品世界の運命に立ち向かうことではなく、作品世界の運命に疎外されながら「自分」のために戦うことなのではないか。ガンダムの何がリアルかと言えば、「そこ」なのかなぁ。

21:19
で、この主人公の「運命からの疎外」度が、ZZ以降弱まっていく。ハマーンシャクティ、ディアナなど、ヒロインが「運命の中心」に鎮座在してしまうから。だからセイラさんとのなんともいえぬ関係や、ララァとすぐ死に別れたファーストがいつまでも先鋭的なんだろうな。

21:25
物語の、宿命の、振る舞いの中で生きられない。ダイターン3の波乱万丈もガンダムシリーズに通底する問題を抱えた主人公だと思う。だが彼は逆にシャアやシロッコの位置にいて、そんな自分にニヒリズムを抱いているんだが。

21:27
「宿命」に主人公らしい「ふるまい」を要求される波乱万丈は、ガンダムシリーズでいえばグレミーやクロノクルの「背丈の合わない服を着ていて、自分もそれをなんとなく分かっている感」につながると思う。

21:33
シャアはそれでも変態仮面なので、健忘症的にかなぐり捨てて何とかやってるし、シロッコは道化になり超然的に乗りこなそうとしてる、ハマーンジュドーによって初めてその暗闇から解放される、クロノクルは足場の定まらずのたれ死ぬ。宿命から解脱した主人公たちと違い彼らは「宿命」に残されている。

21:35
宿命の中心たる「敵」たちが宿命から解放されたとき、ガンダムは新しい歴史を刻むのではないか?

21:36
あ、そうか、そう考えると、宿命から、解脱したディアナさまは、やっぱりターンエーの、ラスボスだったんだな。

21:41
ガンダムシリーズのテーマはドラマツルギーとに背負わされた「宿業」からの「解脱」かもしれん。主人公はいつまでも「貴様がそこにいるのは状況にすぎん(おれこそがここにいるべき人間だ)」と言ってるライバルたちに「もう、ええやん。業やでそれ」と言いにきたのかもしれぬ。うーん、仏教。

21:42
作品世界からの解脱、かぁ。イデオンやんけ、結局。

21:48
「シーラ・ラパーナ、浄化を!」ってカンジでもありますな、ショウが黒騎士にしたことや、新約Zでカミーユシロッコに「女たちのところに帰れ」と言ったのはまさに「作品という宿命からの解脱」だよな。

21:49
ガンダムって、すげー仏教。

21:51
同時にトミノはライバルを中心に物語世界を構築して、その枠組みから救済する「第三者」として主人公を設定しているような気がしてきた。

21:51
今、シャアを描くとすれば、トミノはシャアを「救う」のかもしれないな。

21:56
罪業のライバルと救い主の主人公、この関係をもっとも端的に示しているのがカテジナとウッソの関係なんだろうな。何度も何度もウッソからさしのべられる手をおかしな方向に降りちぎり、救いを拒絶する。最後は失明し、寄る辺なくさまよう。もっとも救われない心を描いたのはVガンダムだと思う。

21:58
で、主人公とライバル。どちらも一つの人のありようであって、それに姿を与えて端的に対立させてるんだろうな。トミノ作品は。


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