あしたのジョーはヤバイ3 −白木葉子というディーヴァ−

あしたのジョーという作品、様々な面で後のマンガ界に影響を与え続けています。
その一つとして白木葉子(しらきようこ)という類希なるヒロインの造形があるでしょう。

あしたのジョー(3) (講談社漫画文庫)

あしたのジョー(3) (講談社漫画文庫)

ジョーの前に度々現れ、影響を与えていく彼女。日本有数の白木財閥の令嬢です。令嬢といえばキャラクターのイメージ類型としては
1おしとやか
2高慢
などが、典型的なものとして浮かぶでしょう。しかし、白木葉子はそのようなカテゴライズにとらわれない、いや、はるかに逸脱した存在として読者の前に現れます。「あしたのジョー」でもっとも個性的なパーソナリティを持つ人物といえます。
彼女は最初、ジョーの起こした詐欺事件の被害者として登場します。慈善活動として寄付金を払う彼女。その姿は世間の人々から「純真」「高貴」と称えられます。しかしジョーのみがそんな彼女の姿勢を「自己満足」と罵倒するのです。
彼等が再会するのは刑務所の中でした。ジョーの収監された特高刑務所に慰問団としてやってきたのです。力石や署員、他の収容者も彼女を美しさ、清純さの象徴=「聖女」として慕うのです。がこのときもジョーだけは別の態度を取りました。

つまり万事恩きせがましいんだよ。はるか雲の上から優越感でやってることなんだ。
うわべだけの愛、かたちだけの親切。
いわばすべてにせものなんだな!
                                   矢吹丈

ジョーはあくまで彼女の前に立ちはだかります。ここでフツウなら笑顔で受け流したり、泣き出したり、またこの野獣のような男を軽蔑するでしょう。狂犬を無視して迂回するのが普通の生き方です。しかし白木葉子は違いました。ジョーと正面から向き合い、その言葉に反論します。そして力石との院内試合を開催(プロモート)するのです。
朱に交われば紅くなる、猛獣使いは猛獣になる。白木葉子は猛獣を観客席から眺めているだけの「見物客」ではいられない、猛獣であれなんであれ、それと対峙しなければおさまらない恐るべき女性です。彼女はふと漏らします。

「あした」・・・といってるわね。しきりに・・・
「すばらしいあした」は今日という日をきれいごとだけ・・・
おていさいだけでととのえてすごしていては永久にやってこないわ

血にまみれて、あせやどろまみれ、きずだらけになって・・・
しかも他人には変人あつかいをされるきょうという日があってこそ・・・
あしたは・・・
ほ・・・ほんとうのあしたは・・・!
                                                                                          白木葉子

彼女は気づいているのです、心の奥では。矢吹ジョーのみでなく自分も「野獣」だということを。世間が自分に与えるイメージはうわべだけに過ぎないこと、そして誰もが、自分に関わる誰も。そう、自身のジムに所属する力石ですらその「うわべ」で自分を見ていることを。そして自分すらその「うわべ」で自分を理解しようとしていたことを。
ジョー以上の「野獣」。乾きを忌避する獣。
白木葉子は類希なるヒロインです。
根本からおたがいの「獣」に向き合う男女という意味で。
それはこれまでも、これからも変らないでしょう。
つづく