ブラッドハーレーの車輪の裏

「思い出すわね、あの噂」
「噂?」
「あったじゃない……。ブラッドハーレー聖公女歌劇団は実はもう一つあって、そっちの方では私達の知らない面子が舞台に立ってるのよ」

ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)

ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)

ブラッドハーレー聖公女歌劇団。ブラッドハーレー公爵の持つ、孤児院の少女たちから選ばれるその歌劇団は、親なき少女たちの憧れの的であった。この歌劇団にスカウトされたものは部隊での栄光と共に、公爵家の幼女になるという特権までも用意されるのだから。しかし、それはほんの一部の「光」に過ぎない。表舞台に立つ少女たちの影では、凄惨な地獄が繰り広げられていたのだ。残りの少女たちは囚人の慰み物にされ。、殺されていったのだ。
ってことで読みましたよ。地方都市Kの催淫*1にあるレストランで。皆さんが「グロスギー」「ヒデー」というので期待していましたが、思ったほどグロくなかったので、小心者の私としてはホッとしています。しかしリベルタンなもう一人の私は少しがっかりです。(どっちだよ)
しかし、私がここで述べているのは直接描写の話。真のグロさはそこにはありません。そう、このマンガで読むべきは行間なのです。
ネタバレになるので細かい説明は控えますが、第二話「友達」のオチ。第四話の「家族写真」のラストで示された小瓶と手紙の嘘と、第五話で訪れるその報い。すべてが驚嘆すべきエゲツナサです。直接の性描写なんかよりもこの「行間」の残酷さの方が凄まじい。是非、未読の方は丹念に読んでみてください。死者から発せられる形なきメッセージ。そこからつむぎだされた出口の無い地獄が垣間見えると思います。
そして読むべき最大の行間はブラッドハーレー公爵と、彼女に最後まで仕えた女性についてです。
「ああ、最終話のオルキデアのことね?」
「ちがいますよ。カザリンです」
「誰、それ?」

カザリンのこと、気づいてない人は読み直してください。いますよ、ホラ。第三話にも、第七話にも、ほら、最終話の最後のコマにも…。この「ブラッドハーレーの馬車」がブラッドハーレー聖公女歌劇団の「影」として殺されていった女たちの話なら、カザリンはただひとり、「光」であり続けた女なのです。
彼女は歌劇団の花形として表舞台のライトを浴び続けています。そんな彼女の姿は作中の一コマとして目立たないように、スターでありながら目立たないように配置され続けてきています。なぜか?この話は「影」を主人公としているから。光を浴び続け、暗部を知らないカザリンは端役でしかありえないのです。
1942年、彼女の頭上に死が訪れるまで、彼女はブラッドハーレー聖公女歌劇団、およびブラッドハーレー公爵の「影」を知らずに生きてきたのでしょうか。私は「然り」と考えます。彼女は最初から最後、死ぬときまで「幸福な公爵家の幼女」として死んでいったと私は考えるのです。
もし、この「ブラッドハーレーの馬車」がカザリン視点で語られていたらどうなったでしょう。我々は公爵の恥部も暗部も知らず、ただただカザリンという娘のシンデレラストーリーを、舞台における栄達を、それこそ「小公女セーラ」を見るが如く、見守っていたのでしょうね。…エグいっ!!
そう考えると、オルキデアがいかにに公爵を擁護しようとも、カザリンを「光」のまま飼い続けることに恬として恥じないこの男は、強姦殺人を斡旋するこの男は、どうしようもない外道としか言いようがないのです。
そういう「行間」を読めば、ホンットウにエゲツナい、グロい話!オススメですっ!!

*1:「おひっこし」のあとがきマンガに登場する、沙村広明が勝手に聞き間違えた地方都市Kの地名。元々は淳和天皇の後院(ごいん)に由来する